更年期障害の漢方治療
卒後4年目薬剤師の小林友稀です.前回は月経前症候群(PMS)の漢方治療を勉強しました.
今回は同じく産婦人科領域で更年期障害の漢方治療を勉強してみます.
・更年期障害について
更年期は,閉経前後5年間の合計10年間と定義されています.
原因は卵巣機能の低下が主ですが,加齢に伴う身体的な変化,精神的な要因などが複合的に影響すると考えられています.
症状としては,
・血管運動神経症状
火照り,ホットフラッシュ(のぼせ),発汗など
・身体症状
めまい,頭痛,肩こり,腰痛,関節痛,冷え,便秘など
・精神神経症状
不眠,易怒性,抑うつ,不安など
が見られます.
・加味逍遙散
体質虚弱な婦人で精神神経症状や便秘傾向がある患者さんに著効します.
加味逍遙散に関しては,更年期障害への効果を加味逍遙散群/ホルモン補充療法(HRT)群/加味逍遙散とHRT併用群で比較したランダム化比較試験(RCT)があります.
それをみると「めまい症状」は加味逍遙散群で有意な改善を示しました.
「夜間中途覚醒がある」「胸が締め付けられる症状がある」には加味逍遙散とHRT併用群が有意な改善を示しました.
1つ注意が必要なのは,構成生薬に「山梔子」が含まれる点です.
山梔子は累積使用量が多くなると,腸管膜静脈硬化症の副作用が現れることがあります.
そのため長期使用や,短期使用でも他の漢方との兼ね合いで山梔子の累積使用量が多くなるケースでは注意が必要です.
・腸管膜静脈硬化症
腸管膜静脈硬化症は,腸管膜静脈の石灰化による,環流障害,腸管循環不全がその病態です.
特に右側結腸を中心に腸管膜静脈および腸管壁で膠原線維沈着がみられます.
症状が進行すると,腸管の血行動態が低下して循環不全を引き起こします.
炎症細胞による浸潤が乏しく,初期は無症状であることが多いので知らない間に進行していることもあります.
山梔子は右側結腸で吸収されることが知られています.まさに腸管膜静脈硬化症の好発部位です.山梔子の主成分はゲニポシドですが,ゲニポシドは代謝される過程において青色を示し,腸管の色素沈着を引き起こします.
・桂枝茯苓丸
続いて桂枝茯苓丸について見てみましょう.
桂枝茯苓丸は更年期障害のホットフラッシュ,頭痛,肩こり,冷えに著効します.
身体所見として,舌下静脈怒張や証として瘀血がある場合に適応になる点で,PMS治療に使える桃核承気湯と似ています.
桂枝茯苓丸もホットフラッシュを有する閉経女性を対象として,HRTとの比較を行ったRCTがあります.
この試験では,ホットフラッシュへの有効性の他に下半身の冷えへの改善も認められました.
また,RCTでは無いですが,更年期障害に関連した高血圧への影響を調べた試験では,桂枝茯苓丸の6ヶ月服用で血圧が有意に低下(収縮期:-13.6mmHg/拡張期:-6.0mmHg)し,発汗,不眠,頭痛,めまいなどの更年期障害への有効性も示されました.
2回にわたって,産婦人科領域でコモンなPMS,更年期障害の漢方治療を勉強しました.
効果/副作用のモニタリングで注意が必要な漢方もあるので,適切な薬学的管理が行えるようにしっかり知識を整理したいですね.
にほんブログ村
当ブログは薬剤師や医療従事者を対象にしたものです.ブログ内容の多くは,理解するために基礎的な薬学,医学の知識が必要です.知識不足による誤解や曲解には当ブログは責任を負いません.提示している症例は,実際にあった症例を基に教育的要素を付加した模擬症例です.また個別の相談や症例相談には応じられません. ご了承ください.その他,ご意見・ご感想は,ブログのコメント欄にお願い致します.
コメント
コメント一覧 (3)
記事に関係ないコメントで大変申し訳ありません。
海外の薬剤師免許に少し興味があるため教えていただきたいです。
小林先生はpharm.Dをお持ちということで、アメリカのどの大学院に行かれたのでしょうか?
私は英語が苦手なため、試験対策やアメリカと日本の薬剤師の違いなど記事にしていただけると嬉しいです。
海外で薬学を学んだ経験がある人が周りにいないので、是非お願い致します。
小林 友稀
がしました
Pharm.D.は学位ではなく,臨床薬剤師の呼称になります.海外の大学院等で取得した学位ではありません.
JPEC(日本薬剤師研修センター)の見解の通り,6年制薬学教育を経て薬剤師国家試験に合格し,薬剤師免許を取得した者の呼称(英語表記)としてPharm.D.を用いることができます.(https://www.jpec.or.jp/download/PharmD-kenkai20110111.pdf)
また,文部科学省も同様の見解を出しています.ご確認いただければと存じます.(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/022/gijiroku/03082901/001.htm)
簡単にまとめると,医師を表すM.D.や歯科医師を表すD.D.S.と同じように,薬剤師においても6年制教育へ移行してからPharm.D.と呼称するようになりました.
M.D.やD.D.S.も日本国内に於いては正式な学位(ここでの正式とは,大学教育を管轄する文部科学省並びに大学から授与される学位を示します)ではなく,海外と合わせて英語表記をする際に用いる呼称です.
海外の薬学教育を受けたことはないので,お力になれることがなく申し訳ないです.
小林 友稀
がしました
ご教示ありがとうございます。
pharm.Dは日本にはない職能学位で、アメリカで取られたのかと思っておりました。
6年制を卒業すれば、pharm.Dを名乗ってよいのですね。
小林 友稀
がしました