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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

最近,利尿薬について考える機会が多いです.

いや,変な意味じゃないですよ.治療が上手くいっていないケースが多かったり,なんで利尿薬飲んでいるのに浮腫が全然改善しないんだろう,などと考えています.

そんなわけで,今回は利尿薬全般の基礎知識を復習しました.


・利尿薬の基本知識
腎臓の糸球体で濾過される血液(正確には血液の血漿成分)量は約150L/日ありますが,その99%は尿細管によって再吸収されます.

再吸収には尿細管の各部に存在するトランスポーターが関わっています.

ほとんどの利尿薬の作用機序は,この尿細管各部にあるトランスポーターを介してNaの再吸収を抑制させることで,2次的に水の再吸収も抑制し,利尿効果を示します.いわゆる「Na利尿」のことです.

Naを動かさない利尿薬としては,トルバプタン(サムスカ®︎)があります.バソプレシンV2受容体拮抗薬ですね.

トルバプタンは水利尿薬という分類で,水分“だけ”の利尿作用を示します.
機序としては,バソプレシンV2受容体を遮断することで,皮質集合尿細管で水を受動的に再吸収するアクアポリン2が細胞膜へ誘導されることを阻害します.
(バソプレシンV2受容体を“刺激”すると,アクアポリン2がリン酸化(活性化)し,細胞膜表面に誘導されて水を再吸収する)


・尿細管の各部におけるNa再吸収の割合
尿細管を大きく4つに分けてみると,糸球体に近い部分から,近位尿細管,Henleループ,遠位尿細管,皮質集合尿細管となります.

それぞれNaの再吸収の割合も示すと,近位尿細管(50〜55%),Henleループ(30〜40%),遠位尿細管(5〜8%),皮質集合尿細管(2〜3%)となっています.

これは意外でした.

利尿作用としてはループ利尿薬が最も強いという理解をしていたので,何となくHenleループのNa再吸収が1番多いのかと思っていました.

単純にNa再吸収の阻害という面でだけ考えると,最も再吸収に寄与の大きい近位尿細管を阻害する薬剤,つまりアセタゾラミド(ダイアモックス®︎)のような炭酸脱水酵素阻害薬が最も利尿作用が強いということになりそうです.

では,なぜ実際にはそうではなく,Henleループに作用するループ利尿薬の方が作用が強いのでしょうか?

それはアセタゾラミドによって近位尿細管を阻害しても,代償的にHenleループでのNa再吸収能が上がるため,結果としてNa利尿作用は弱くなってしまうからです.

もう1つ,近位尿細管からのNa再吸収には,さまざまな機序が絡んでいます.

アセタゾラミドによる近位尿細管阻害はそのうちの1つを阻害しているだけなので,他の機序からのNa再吸収は行われていると考えられます.

そうするとアセタゾラミドだけで,近位尿細管からの再吸収率50〜55%のほとんどを阻害するということは出来ず,そのうちの数%しか阻害できないというわけです.

やはり,アセタゾラミドはHCO3^-排泄作用がメインとなるようですね.


・利尿薬の効果が最も高いものは
そのため,Na利尿という点で考えると,やはりループ利尿薬が利尿作用としては強いと考えられます.

作用の強さは,ループ利尿薬の次にサイアザイド系利尿薬(遠位尿細管のNa-Cl共輸送体阻害)次いで,アルドステロン受容体拮抗薬(アルドステロン受容体拮抗→皮質集合尿細管でNa再吸収およびK分泌の抑制)の順になります.

これは,単純にそれぞれの尿細管でのNa再吸収率と関連していると理解できます.


・ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬で高尿酸血症がみられる理由
ループ利尿薬もサイアザイド系利尿薬も,アルブミンと結合して腎臓に輸送されます.腎輸入細動脈に入り,糸球体へ行くわけですが,アルブミンと結合しているのでここでは濾過されません(尿細管腔には行かない).

そのまま輸出細動脈から出ていき,近位尿細管周辺の毛細血管から尿細管腔へ移行します.

え、糸球体は通れなかったのに,毛細血管は通れるの?って思いましたか?

ここがポイントになるのですが,当然そのままではアルブミンと結合しているので毛細血管から移行することはできません.

近位尿細管周辺の毛細血管には,有機酸トランスポーター(organic anion transporter:OAT)が存在します.

このOATを介して,尿細管上皮細胞に取り込まれ,その後,尿細管腔側に存在するMrp-4(multidrug resistance associated protein 4)を介して尿細管腔へ分泌されます.

その後,ループ利尿薬はHenleループ(正確にはHenleループ上行脚のNa-K-2Cl共輸送体)を阻害し,サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管のNa-Cl共輸送体を阻害します.

このOATを介して,尿細管上皮細胞に取り込まれる際に,反対側の尿細管腔からは尿酸が再吸収されることが知られています.

そのため,ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬の使用時に,血清尿酸値の上昇が見られることがあるというわけです.

ちなみに,ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬が尿細管腔へ分泌され,尿細管腔側から作用を発揮する一方で,スピロノラクトンやトルバプタンはそれぞれ作用する標的尿細管(スピロノラクトンはミネラルコルチコイド受容体/トルバプタンはバソプレシンV2受容体)の血管側から作用します.

なんとなく利尿薬の全体像が見えてきた気がします.
また次回,もう少し掘り下げて勉強してみたいと思います.
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