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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

さて,今日は前回に引き続き利尿薬の勉強です.

前回の時に,利尿薬の総論的なことを勉強したので今回は各論的なことを勉強してみます.

まずは利尿薬で1番使われている(であろう)ループ利尿薬です.

代表的なループ利尿薬として,フロセミド(ラシックス®︎)があります.

フロセミドは面白い薬剤で,生体利用率(bioavailability:BA)が10〜100%(平均で50%)と幅が広いです.

これは服用する人によって,効果にかなりばらつきがあることを示しています.

なぜこのような事態が起こるのでしょうか.

フロセミドに限らず,どのような薬物でも薬物動態(pharmacokinetic:PK)と薬力学(pharmacodynamics:PD)を考える必要があります.

PKでは吸収・分布・代謝・排泄のいわゆるADMEを考えますが,フロセミドは特に影響を受けやすい薬剤です.

例えば低アルブミン血症腸管浮腫,肝機能障害,腎機能障害などが影響します.

また,PDとしては心不全や肝硬変,腎不全など,病態の影響を考えます.これらの場合にはレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)や交感神経系が亢進し,Na再吸収が亢進しています.

フロセミドによるNa利尿と,これらの病態が拮抗して作用減弱になる可能性も考慮しなければなりません.

そのため,生理的な個人差に加え,病態の影響もかなり大きいのでBAにも大きな差が生じることになるのです.


・腎障害時のフロセミドを考える
腎不全の場合を考えてみましょう.

残存したネフロンは正常ネフロンと同等のNa排泄能(fractional excretion of Na:FENa)を持ちますが,糸球体濾過量は低下しているので,尿細管腔に輸送されるフロセミドは減少します.(フロセミドは前述した通り,糸球体で濾過される訳ではないですが,糸球体へ流入する血液が減るので,結果として通過できるフロセミドも減ります)

さらに,糸球体濾過能の低下により,尿毒症物質が増えて,これらがフロセミドの尿細管分泌を阻害します.

そのため,正常時と比較すると高用量の投与が必要になります.

このようにPKの観点でみると,腎不全時には最初から高用量で反応性を確認して,投与量を調節していくのが望ましいと考えられます.

しかし,フロセミドは半減期が短いため,Na利尿を増やしたければ投与量を上げるだけではダメで,結局は投与回数も増やす必要があります.

一方,ネフローゼ症候群,肝硬変,心不全などのPDの問題では,FENaが低値となります.そこで1回量を増やしたとしても,すぐに効果は頭打ちとなってしまいます.

そのため,腎機能にもよるとは思いますが,投与量を上げるよりかは,投与回数を増やしたり,点滴による持続投与を行うという方法のほうが薬力学的には正しいということになります.


・心不全時のフロセミドを考える
急性心不全に伴う,急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は心不全による腎血流量の低下が主病態と考えられていました.

しかし最近では,心不全時の中心静脈圧(central venous pressure:CVP)上昇がAKI発症と関連することが報告されています.

CVP静脈環流量とこれを処理する右心室のポンプ機能との兼ね合いで決まります.

心不全時にCVPが上昇しているということは,静脈環流量が増えて,右心室のポンプ機能が低下しているという病態です.

静脈環流量が増えているというのは,言い換えると「うっ血」を意味していて,腎臓におけるうっ血,つまり「うっ血腎」がAKIの主病態であると,最近では考えられています.

フロセミドなどの利尿薬は,体液過剰,うっ血の解除を目的に使用しますが,うっ血腎自体が利尿薬のPK/PDに影響を与えます.

そのため,フロセミドにおいては高用量・頻回投与・持続投与などの方法でPK/PDの異常に対処する必要があるんでした.

こうしてみると,フロセミドってなかなか奥が深い薬剤ですね.

フロセミドなどのループ利尿薬で難治例に遭遇した時は,低アルブミン血症がないか,腸管浮腫の可能性は?肝機能障害,腎機能障害はないか?などPKの問題を考えて,さらに心不全や肝硬変,腎不全の程度を考慮して,PDの問題はないか?ということを考える必要があるんですね.

PK/PDに関しては,フロセミドだけでなく,すべての薬剤に言えることなので,これからも大事にしたい視点です.
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