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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

今回はリフィル処方導入に向けて,最もメジャーな疾患である「高血圧」の薬物治療管理について勉強しました.

「Do処方」「再診」か.また,目の前の高血圧患者について,しっかりと評価できるようになることが目標です.


・降圧目標について
高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では,患者背景に沿った2つの降圧目標へ改訂されました.JSH2014では3つの降圧目標だったので簡略化された形になります.

ただ,エビデンスについては乏しく,結局は個々の症例に合わせた降圧管理計画が必要といえます.JSH2019を鵜呑みにして管理していこうとするのは甘いようですね.

高血圧治療に関しては研究も多く,エビデンスは豊富なので独自に降圧治療管理を行うための数値設定をしてみましょう.こちらは鵜呑みにしてもらって構いません.


・臨床試験を比較してみる
NIPPON DATA80EPOCH-JAPANのデータから,合併症の無い65歳未満では心血管死亡は非常に少ないと分かります.そのため65歳未満では140/90mmHg未満に降圧治療を行うのは費用対効果の面から推奨されないと言えます.

糖尿病のない,高リスク患者に対するSPRINT試験では,収縮期120mmHg未満の群で総死亡や心血管イベントが減少しています.合併症のない高血圧に対するOslo試験では,収縮期130mmHgを目標にすると脳卒中発症は減らせましたが,冠動脈疾患発症は増加してしまいました.

それぞれ試験結果にはばらつきがありますが,総合的な判断として75歳未満の成人であれば,降圧目標は130/80mmHgとするのが良さそうです.

しっかりJSH2019の降圧目標と揃ってしまいました.くやしい.皆さんもそれぞれの臨床試験を見て,自分なりの降圧目標を決めておくのも良いと思います.


・75歳以上の高齢者や基礎疾患がある場合
まず75歳以上の高齢者を対象とした臨床試験にはJATOS試験VANISH試験があります.これらの結果をみると,概ね140/90mmHg未満に抑えるのが良いと読めます.

糖尿病合併例については,ACCORD試験があります.
こちらは収縮期120mmHg未満で脳卒中は抑制できましたが,総死亡や心血管イベントは抑制されていません.それどころか,腎機能悪化が有意に増加してしまいました.JSH2019ガイドラインを確認すると,日本では欧米諸国に比較して脳卒中が多いため,糖尿病合併例では130/80mmHg未満を目標値と設定しています.

慢性腎臓病の尿蛋白陽性例では,より厳格な降圧によって腎障害の進行を抑制する効果が確認されています.

冠動脈疾患脳血管障害の併存では,さらに低めの降圧目標が必要とされています.

よって,75歳以上の高齢者や糖尿病合併,慢性腎臓病合併例では少なくとも140/90mmHgは超えないように管理するのが良いでしょう.ただし合併症の数や重症度によってはさらに降圧が必要というケースも考えられるので,一概に線引きをしてしまうのは良くないと思います.


・降圧剤の使い分け
サイアザイド利尿薬,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARBの4つから選択されることが多いです.目の前の患者さんに処方されている降圧剤が,最適なものかを評価するのも処方監査の1つです.

ALLHAT研究では心血管リスクが高い患者で,降圧剤の種類ごとの治療成績を比較しています.それによると,サイアザイド系利尿薬ではCa拮抗薬に比べて心不全イベントが少なくACE阻害薬と比較しても心血管イベント,脳卒中,心不全が少ないという驚異的な結果でした.

ちなみにα遮断薬(ドキサゾシンなど)では心不全発生が多く,途中で中止されてしまいました.そのため,第一選択にされることはない薬剤と言えます.

・サイアザイド系利尿薬
上記の理由から,第一選択薬はサイアザイド系利尿薬が良いでしょう.
また,サイアザイド系利尿薬は塩分摂取量が多い症例では,より有効とされています.
日本人の食生活習慣では高塩分食が多いため,第一選択薬として推せる理由になります.

リフィル処方の際,使用上の注意点としては,65歳以上の特に女性では,サイアザイド系利尿薬の開始1~2週間Na濃度をチェックし,低Na血症がないかを確認するのがセオリーとなっています.

初回のみならず,定期的にNa濃度は確認したいので,採血がされていない患者さんがいれば,処方医に血液検査のオーダーを入れましょう.

ただ,大きな総合病院や大学病院など,医療機関側の要因でなかなか処方医とコミュニケーションが取れないケースもあるでしょう.

その場合でも大丈夫です.薬局でできる低Na血症の確認を実施しましょう.

採血結果が見られない場合には,症候から低Na血症をきたしていないか確認します.

利尿剤による低Na血症では,血漿浸透圧は低値になっているはずです.(有効循環血漿量は減少,細胞外液も減少のはず)

血漿浸透圧低値の影響を最も受けやすい臓器はであるため,低Na血症の主な症状は中枢神経症状になります.すなわち食欲不振,悪心,嘔吐,疲労感,頭痛,傾眠などです.

これらの症状がないか確認し,検査値が確認できないときの低Na血症の除外として評価したことを薬歴に残しておきましょう.

ちなみに「低Na血症のためサイアザイドを外すけど,利尿剤が必要!」という場面ではループ利尿薬のアゾセミドが有効です.


・Ca拮抗薬
Ca拮抗薬は基本的に「追加薬」として使用します.
治療成績ではサイザイド系利尿薬のほうが良いので,サイザイド系利尿薬を処方してもコントロール不良のときに追加する立ち位置です.

ジヒドロピリジン系(アムロジピン,ニフェジピンなど)は浮腫の副作用が出やすいです.特にこの副作用は用量依存的にでることが知られているので,服用期間が長いほど注意が必要になります.

非ジヒドロピリジン系(ベラパミル,ジルチアゼムなど)は便秘の副作用が多いです.
これらのリフィル処方では,便秘の確認食生活などにも注意が必要になりますね.


・β遮断薬
併存疾患として心筋梗塞後の心不全不整脈片頭痛がある場合はβ遮断薬が有効です.
心房細動がある場合もレートコントロール目的で使うことができます.

逆に避けた方が良いのは大動脈弁閉鎖不全症などです.β遮断薬などの心拍数を下げるような薬剤は不適です.

すこし難しく感じるかもしれませんが,とにかく弁膜症などの併存例はβ遮断薬に限らず,
降圧作用による血行動態増悪に注意する必要があります.

リフィル処方のときは,脈拍数動悸不整脈の有無なども確認しましょう.


・ACE阻害薬/ARB
慢性腎不全アルブミン尿がある場合はACE阻害薬ARBを選択します.
この場合は,収縮期120mmHg未満で総死亡,末期腎不全リスクが上昇するため,血圧手帳などで過降圧になっていないかは最優先で確認すべきです.

ACE阻害薬とARBの併用総死亡腎障害のリスクが高いため,原則禁忌です.

他剤との組み合わせでは,Ca拮抗薬+ACE阻害薬(orARB)利尿薬+ACE阻害薬(orARB)よりも腎保護効果が大きいことが知られています.

ただし,男性高齢者非肥満非糖尿病患者においては,利尿薬+ACE阻害薬(orARB)のほうがCa拮抗薬+ACE阻害薬(orARB)よりも降圧作用は強いことが知られています.腎保護作用では無く降圧作用ですよ.


・なるべく単剤のほうが良い?
薬物治療の原則はなるべく単剤で使用することですが,高血圧に関してはちょっと違います.
最近のメタ解析で2種類の降圧薬で少なくとも一方は低用量で使用すると,高用量単剤に比べて効果は同等で,副作用は少ないそうです.

ただ,注意点としては服用する錠剤数が増えると,服薬アドヒアランスが低下することです.服薬錠剤数とアドヒアランスレート(服薬遵守率)を比較した研究では,内服1剤で79%,2剤で69%,3剤で65%,4剤で51%だそうです.

目の前の患者さんの性格や,病識,健康への意識によってもかなり大きく変わる数値だとは思いますが,頭の片隅に留めておくべき数値ですね.


さて,今回はリフィル処方箋の対応のなかでも,最もメジャーに遭遇すると思われる高血圧の薬物治療管理を勉強しました.

本当は治療抵抗性高血圧についても勉強しようと思ったのですが,治療抵抗性となればリフィル処方せずに通常の処方箋対応のほうが良いかと考えて除外しました.

近いうちに治療抵抗性高血圧の対応も勉強したいと思います.
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