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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)の治療薬について勉強しました.

まずは病態生理から復習します.


・前立腺肥大症の病態生理
前立腺肥大症は前立腺組織の良性過形成により下部尿路機能障害を呈します.

良性組織の過形成によるもの(悪性の場合は前立腺がん)で,機能障害なので物理的に閉塞することで,排尿が困難になる疾患をいいます.

下部尿路閉塞の主な病態は2種類あって,
(1)腫大した前立腺組織による機械的な閉塞

(2)交感神経のα1受容体刺激を介した,前立腺間質中の平滑筋収縮による機能的な閉塞

があります.

閉塞に対して,どちらがどの程度関与しているかは,過形成された組織と平滑筋組織の割合で決まるので,よく測定される前立腺体積と重症度はあまり相関しません.

合併しやすい疾患として過活動膀胱(over active bladder:OAB)があります.
だいたい50~70%程度の合併率です.


・治療方針
自覚症状の改善が主な目的です.
つまり,下部尿路症状を軽減することで,QOLの改善を目指すのが治療になります.

我々が担う薬物治療としては,α1遮断薬ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬が治療の軸になります.

前立腺体積が大きい症例(具体的には30mL以上)では5α還元酵素阻害薬を併用します.

OABを併発している場合抗コリン薬β3作動薬を併用します.


薬物治療について見てみます.

【α1遮断薬】
1.タムスロシン(ハルナール®)
第一選択薬です.臨床でもよく見かけます.体感としても第一選択で使われることの多い薬です.
α1A受容体への選択性が高い(α1Dへも同等の選択性があります)ことがポイントです.
というか,下部尿路のα1A受容体を標的に開発された初めての薬です.

α1受容体血管や平滑筋に存在する受容体で,血管には主にα1Bが発現しています(学生の頃はBloodのBで血管にはα1Bと覚えました).こちらに作用してしまうと,α1Bの血管収縮作用を遮断→血管弛緩→低血圧,ふらつきなどの副作用が起こりやすくなります.
(厳密には,若年時の血管ではα1Aが優位に多く,加齢に伴ってα1Bが増えてサブタイプが逆転することが知られています.ただBPHは加齢に伴って発現する疾患なのであまり気にしなくてよさそうです)

下部尿路組織にはα1A(α1Dも同程度,発現しています)が多く発現しているので,こちらに選択性が高いと都合が良いです.

すこし脱線しましたが,タムスロシンは前立腺のα1A受容体に作用して,前立腺を収縮させることで,尿道を広げ,排尿しやすくする機序を持ちます.

1日1回0.2mg食後服用です.徐放性のため1日1回投与ができるのもアドヒアランスの観点から優れています.(腎機能低下例では0.1mg/日から投与開始)


2.ナフトピジル(フリバス®)
α1D受容体への選択性が高い薬剤です.こちらも第一選択薬として使えます.
開始用量が25mg/日で,漸増して75mg/日まで増量できます.
用量調節のしやすさ(自由度)はタムスロシンよりもあります.


3.シロドシン(ユリーフ®)
α1A受容体への選択性が高いです.
こちらもBPHの薬物療法に於いては第一選択薬になります.

射精障害のSEがあるので,比較的若年者には用いにくい薬剤かなと思います.
添付文書では逆行性射精等が17.2%と記載があります.無視できない数値ですね.

自覚症状として分かるのは精液量の減少です(膀胱側へ射精してしまうため).
不妊症のリスクになりますが,それ以外で健康上の害はないので妊娠希望される以外は特に放置しても問題ない副作用ではあります.

1日2回投与なのが少し懸念です.肝/腎障害では低用量開始を考慮します.


【PDE5阻害薬】
4.タダラフィル(ザルティア®)
尿道前立腺の平滑筋細胞においてPDE5を阻害し,局所のcGMPの分解を阻害することで平滑筋を弛緩させます.これで尿道が広がり排尿しやすくなるのはα1遮断薬と同様ですね.

また,下部尿路組織における血流及び酸素供給が増加するので,虚血や炎症に対しても有効と考えられます.こういった作用が複合して排尿症状を改善すると考えられます.

α1遮断薬とPDE5阻害薬の効果の差ですが,短期的な治療効果は同等とされています.

α1遮断薬で起立性低血圧などのSEが問題になる場合は,PDE5阻害薬に切り替えて使用するという立ち位置が良いと思います.

PDE5阻害薬は,基本的に虚血性心疾患では禁忌となります.
血管平滑筋弛緩作用をもつcGMPの分解を阻害→cGMP作用増強で血管拡張→降圧作用をもちます.

硝酸薬やニトログリセリンなどのNO供与薬と禁忌なのは有名ですね.
NOの血管弛緩作用を増強させる力が強く,死亡例もでているためでした.


【5α還元酵素阻害薬】
5.デュタステリド(アボルブ®)
前立腺体積が30mL以上の症例が良い適応になります.
基本的にはα1遮断薬PDE5阻害薬併用して使用します.

デュタステリドの作用点である5α還元酵素は,前立腺においてテストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)に変換する際に作用する酵素です.

DHTは核内にあるアンドロゲン受容体と結合し複合体を形成します.この複合体はmRNAの合成を促進して前立腺の増殖や機能発現に関与するタンパクの産生を促進します.

デュタステリドによって5α還元酵素が阻害されると,テストステロン→DHTへの変換が阻害され,mRNAの合成も阻害されるため,前立腺の増殖等に関与するタンパク産生が阻害→前立腺組織を減らすことに繋がります.

注意点として,投与6ヶ月以降,PSA値を約50%減少させるため,PSA値の評価をする場合は実測値の2倍を目安に評価しなければならない点に注意が必要です.


今回は前立腺肥大症の治療を復習しました.
過活動膀胱合併はまた別の機会にまとめたいと思います.
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