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卒後5年目薬剤師の小林友稀です.

症例8の検討です.

中途覚醒の原因検索をする前に,中途覚醒について復習しましょう.
中途覚醒とは睡眠障害のうち,不眠症のなかの熟眠障害(浅眠,中途覚醒)に分類されます.

寝付き(睡眠導入)は良くても,短時間で何らかの原因で起きてしまう現象です.

経験上,多いのは飲酒です.いわゆる寝酒というやつですね.

アルコールには,たしかに入眠を促す作用はありますが,代謝物のアセトアルデヒドは覚醒を促す物質であり,睡眠の質を低下させ,結果的に中途覚醒を引き起こします.また耐性を生じるので,より難治の不眠を引き起こします.

この症例では飲酒習慣はないので,寝酒が原因ではなさそうです.

ぼくが注目したのは病歴の「PC作業が多い」点と不定期処方の「ジアゼパム錠」です.

PC作業の多い仕事でcommonなのは肩こり(頸肩腕症候群)です.
肩こりは教科書的にはvisual display terminal:VDTに伴う作業関連性筋骨格系障害として有名ですもんね.

最近はコロナの影響もあって,テレワークが増えたことで患者数が増えているように思います.

また,抑うつ傾向があることも肩こりの悪化の原因になります.
心理的ストレス気圧の変化などで交感神経活動が亢進し,筋緊張が高まるからです.

こういった病態の背景と,中途覚醒時にジアゼパムで改善しているという2点で肩こりによる中途覚醒を考えました.


では,中途覚醒の原因が肩こりにあると仮定して,対処法を考えてみましょう.

生活指導としては作業中に長時間おなじ姿勢でいないよう指導します.
ストレッチなどで筋緊張をほぐすのも有効です.
枕を自分に合うものに変えるのも有効かもしれません.

薬物治療については,いくつか選択肢があります.


1.アフロクアロン(アロフト®)
力価が低いのでファーストラインで使いやすい薬と言えます.
服用している患者さんからは「飲んでいると楽」「飲み忘れると凝ってきて,効いていたんだなと分かる」と聞くことが多いです.

エペリゾンを使うほどではないような,軽度の症例では良いのかなと思います.


2.エペリゾン(ミオナール®)
効果は比較的マイルドです.ファーストラインとして選択しやすい中枢性筋弛緩薬といえます.
適応外ですが,緊張型頭痛耳鳴りにも有効です.
耳鳴りに関してはおそらく血管拡張作用が有効的に作用していると考えられます.

とりあえず筋弛緩薬はエペリゾンを中心に考えて,軽度であればアフロクアロンに落とすのが良いのかなと思っています.


3.チザニジン(テルネリン®)
中枢のα2受容体刺激薬です.そのため血圧低下に注意が必要です.
特に降圧剤との併用では必ず血圧を確認します.

エペリゾン無効例に使用する位置づけと理解しています.


どの薬剤を選択して提案するかは薬剤師によって異なると思いますが,ぼくは最初アフロクアロンでも良いかなと考えました.

ただ,現状ではジアゼパムで中途覚醒時のコントロールをしており,ジアゼパムを使わなくて済む程度の筋弛緩作用の強さは欲しいと考え直して,エペリゾンを提案しました.

結果的には本症例ではエペリゾンの定期内服で肩こりが改善され,中途覚醒なく睡眠もとれるようになりました.

中途覚醒のたびにジアゼパムで対応するよりは良い治療になったかなと思います.

今後の課題としては,エペリゾンの止めどきです.
勤務状況やストレッチ習慣がどれだけ患者さん本人に根付くかによって変わってくると思うので,そういった薬物治療+αの指導も充実させたいと感じた症例でした.

【Clinical Pearl】
・睡眠治療では生活歴の聴取で原因検索する姿勢が大切.

・この薬使っている→こういう症状があるのでは→ほかの病態との関連と連想することも大切.

・中枢性筋弛緩薬ではエペリゾンを中心に考えるのが良い(私見)


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