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卒後5年目薬剤師の小林友稀です.

外来で患者さんから「円形脱毛症の治療」について相談を受けました.
素直に皮膚科受診を勧めたのですが,忙しくて何カ所も病院かかれないと...

外用ステロイドの塗布?くらいしか思いつかないので,しっかり勉強してみました.

まずは円形脱毛症の病態から勉強しましょう.


・円形脱毛症(alopecia areata:AA)の病態
円形脱毛症は,自己免疫性の機序により毛包が一過性に破壊されることで脱毛をきたします.境界明瞭な脱毛斑を呈し,病理組織学的には成長期毛包の毛球部周囲のリンパ球主体の炎症性細胞浸潤を特徴とする自己免疫性疾患です.

しかし,急性期から慢性期に移行するにつれて,自己免疫応答に続いて生じる毛周期の変調により,毛包は「成長期毛」から「休止期毛」へと変わります.「休止期毛」になると毛包を標的とする免疫応答も収束していきます.

つまり円形脱毛症の病期後半では,むしろ毛周期の障害という要素が大きくなります.臨床経過の移り変わりとともに,自己免疫応答による毛包の傷害による脱毛(毛球部が萎縮性の変化を示す脱毛,急性期・急性増悪期)→毛周期の変調による脱毛(毛球部が萎縮性ではないが変調に伴う棍毛主体の脱毛)または再発毛障害による脱毛(慢性期・症状固定期)が生じています.

実際には,罹患部の全ての毛包が同期して同じ状態にあるのではなく個々の毛包により状態は異なります.罹患部に最も多い毛包の状態が脱毛斑の病態を規定することになります.

一般的には,円形脱毛症の病変部では急性期(脱毛期)が終わると発毛期に移行することが多いですが,順調に発毛せず固定期に陥る場合もあります.

ここまで病態の勉強をしてきましたが,簡単にまとめると「円形脱毛症は成長期の毛包に対して何らかの自己免疫的な機序により炎症が生じて脱毛する.毛包が成長期から脱毛により休止期にはいると炎症も治まるが,再発毛障害が生じて脱毛状態が続くこともある」という感じですね.

そう考えると,治療の方針としては毛包で生じている炎症を抑えることになりそうです.

実際に治療ガイドラインを勉強してみると,外来の治療では年齢を問わず,strong,very strongまたはstrongestクラスのステロイド外用薬を主体に治療を行うそうです.セファランチンや第2世代の抗ヒスタミン薬の内服を併用してもよいそうです.また,紫外線療法の併用も効果的なようです.

【ステロイド外用剤】
(strongest)
デルモベートスカルプローション0.05%®(クロベタゾールプロピオン酸エステル)
 1日1~2回 適量を頭部に塗布

(very strong)
アンテベートローション0.05%®(ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)
 1日1~2回 適量を頭部に塗布

リンデロンVローション®(ベタメタゾン吉草酸エステル)
 1日1~2回 適量を頭部に塗布

(strong)
メサデルムローション0.1%®(デキサメタゾンプロピオン酸エステル)
 1日1~2回 適量を頭部に塗布

【内服】
セファランチン錠1mg 2T
 2× 朝・夕食後

処方例としてはこんなところでしょうか.
ランクが強いステロイドから考慮して漸減+病態に応じて内服の併用というストラテジーになりそうです.

頭部の25%以上で激しく脱毛している成人例に対しては,ステロイドパルス療法(ソル・メドロール静注®など)を考慮するそうです.特に初発例で最も効果が期待できると言われています.

ただ,頭部の25%以上で脱毛を呈している患者は,なるべく早く皮膚科専門医にコンサルトするのが望ましいでしょう.


今回のケースは皮膚科ではないDrにかかっている患者さんからの依頼だったので,難しい対応かなと思います.
皮膚科受診を推奨しつつ,皮膚科受診までの“つなぎ”処方としてステロイド外用剤を提案するのが良いのでしょうか.

ただ,その後にかかる皮膚科Drに,中途半端に治療されていると診断がつきにくくなるなどの弊害がでないか心配です.悩ましい...
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