新生児へのビタミンK2投与は3回では不十分?
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大学病院からの院外処方でメナテトレノン(ケイツーシロップ0.2%®︎)の処方を経験しました.
処方量が9週だったので,そんなに投与する薬だったかなと思って「新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症の改訂ガイドライン」を勉強しました.
・ビタミンK服用が必要な理由
まず,基本から復習します.
新生児にビタミンK内服が必要な理由は何だったでしょうか.
ビタミンKのうち、内服が必要になるビタミンK2(メナテトレノン)は,通常は腸内細菌によって産生されるため,不足することはありません.しかし新生児期〜乳児早期では腸内細菌が未発達のため,ビタミンK2の産生が十分ではありません.そのため,ビタミンK欠乏症を起こす可能性があります.
ビタミンK2は血液凝固因子(第Ⅱ因子(プロトロンビン),第VII因子,第IX因子,第X因子)の蛋白合成過程で,グルタミン酸残基 が生理活性を有するγ-カルボキシグルタミン酸に変換する際の,カルボキシル化反応に関与しています.
つまり,ビタミンK2 は正常プロトロンビン等の血液凝固因子の肝臓での生合成を促進して,生体の止血機構を賦活化することで生理的に止血作用を発現します.
ビタミンK2が不足するということは,生体の止血機構の低下を意味し,出血症を引き起こします.
新生児期にみられる出血症を「新生児メレナ」といい,消化管出血(吐血/下血)が多いという特徴があります.しかし脳出血を起こすこともあり,脳出血から脳損傷を引き起こし,脳性麻痺などの神経障害が残ることもあります.
これらを予防するためにビタミンKを服用する必要があります.
・ビタミンK製剤の服用方法
従来では,日齢0,5,生後1ヶ月の全3回投与でした.添付文書上の用法もこれになっています.
ただ,この服用方法だとビタミンK欠乏症による出血を完全には回避できず,より十分なビタミンK補充が必要との小児科学会の推奨変更に伴って,最新の治療(予防)では,日齢0,5,日齢14以降は毎週投与(生後3ヶ月まで,全12回)となっています.
以下は,合併症をもたない正規産新生児への予防投与の方法です.
・1回目の投与
出生後,数回の哺乳により,哺乳機能が確立したことを確かめてからビタミンK2シロップ1mL(メナテトレノン:2mg)を経口的に1回投与します.
また,ビタミンK2シロップは高浸透圧のため,滅菌水で10倍に薄めて投与する方法も良いです.ちなみにケイツーシロップ0.2%®︎はオレンジ味(風味)です.
・2回目の投与
生後1週または,産科退院時のいずれかの早い時期に,1回目と同様に投与します.
・3回目以降
3回目は1ヶ月検診の時に,前回と同様に投与します.ただし,この時点で人工栄養が主体の場合は,それ以降のビタミンK2シロップの投与を中止してよいことになっています.
完全母乳か,混合型か,完全粉ミルクかの確認をすると良いです.
また,ビタミンKが豊富な食品として,納豆や緑黄色野菜があります.これらを積極的に摂取すると母乳中のビタミンK含量が増加するので,母乳を与えている母親への食事指導は有用です.
ちなみに母親へのビタミンK製剤投与するという方法も考えられますが,どうやら十分なエビデンスはないようです.
やはり基本は新生児への投与になります.
・ビタミンK2シロップの服薬指導
自宅でのシロップ服用に際しての服薬指導です.
・スプーンで飲ませる場合
スプーンに原液を少しずつ取り分けて,口に流し込むようにします.
頬の内側に垂らすように流し込むと,飲ませやすいです.
・哺乳瓶の乳首で飲ませる場合
まず哺乳瓶の乳首をくわえさせます.そこに原液を少しずつ流し込んで飲ませるようします.
・哺乳瓶で飲ませる場合
ミルクか湯冷し,母乳に混ぜて飲ませる方法もあります.
量は必ず飲み切れる程度(10mL以下など)に調整します.
・服用のタイミング
どの服用方法にするにしても,授乳直前など新生児の哺乳意欲が高いタイミングで服用させるように指導します.
また,嘔吐を避けるために服用後は15分程度間隔を空けてから授乳するように指導します.
・飲ませ忘れた場合
気がついた時点で服用するように指導します.次の服用までの間隔が短くなっても問題ないです.過剰症になる危険はまずないです.
・服用後すぐに嘔吐した場合
すぐにビタミンK欠乏症になる可能性は低いです.そのため,すぐに再投与する必要はなく,次の服用時に飲ませるという指導で良いです.
ただし,嘔吐が続くなどで3週間以上服用できていない場合は主治医と相談します.
まだあまり周知されていないビタミンK2シロップの服用方法かと思いますが,周知されてくれば処方箋を応需する機会もあるかと思います.
適切な服用指導,薬効の評価,副作用の回避ができるように準備しておくことが大切ですね.
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