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カテゴリ:臨床論文考察

横紋筋融解症の既往がある症例で,スタチンを使いたい場合はどうするか?

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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

以前にスタチンで横紋筋融解症(Rhabdomyolysis)を発症したが,心血管リスクを下げるためにスタチン再開が望ましいと考えられる症例を経験しました.

何となく,水溶性スタチンかつスタンダードスタチンであればリスクが低いのかなと思い,調べてみました.

PubMedで検索をかけると,2021年のスタチン誘発性横紋筋融解症のナラティブレビューを見つけたので,勉強してみました.


・スタチンによる横紋筋融解症の機序
スタチンによる横紋筋融解症の主なメカニズムは不明ですが,ユビキノンの減少により,骨格筋の壊死を誘発すると考えられています.

HMG-CoA経路は,コレステロールの産生以外にもユビキノン(コエンザイムQ)などの必須分子も産生しています.

ユビキノンミトコンドリア呼吸鎖の構成成分であり,ミトコンドリア電子伝達系の促進因子として働きます.そのためスタチンの作用によってHMG-CoA経路を阻害すると,ユビキノンの産生が阻害され,筋細胞のエネルギー産生が阻害され,筋細胞死を引き起こすと考えられています.


・脂溶性or水溶性で横紋筋融解症発症率の差はあるか?
In vitroの研究では,脂溶性スタチンの方が水溶性スタチンよりも筋萎縮作用が大きいことが示されています.“筋萎縮作用が大きい”とあるので,発症率ではなく発症した際の重症度という理解で良いかと思います.

具体的にはアトルバスタチンシンバスタチンフルバスタチンなどの脂溶性スタチンは,筋細胞において前述の機序によりアポトーシスタンパク質分解による筋細胞破壊を促進することが示されています.

これらの脂溶性スタチンは,受動輸送により脂質層膜簡単に通過することができるため,より強い筋毒性を示すようです.


また,横紋筋融解症の発症率アトルバスタチンおよびシンバスタチンを服用している患者でより一般的(よく見られるという意味?)であるとの報告があります.

ただし,これはそれだけ使用患者が多いという背景も考慮すべきですし,さらに元の論文をあたると,アトルバスタチン80mg/dシンバスタチン120mg/dなど,日本の感覚で言えばかなりの高用量を使用している点も考慮すべきだとは思います.


・スタチンの種類ごとの発症率の差を作る要因は?
スタチンの作用点であるOATPアイソフォーム(構造が異なるが,同じ機能をもつタンパク質)であるOATP2B1がスタチンのヒト筋細胞への蓄積を促進し,筋毒性を高めることが報告されています.

同様の結果が,ラットを用いてスタチンによる筋毒性の機序を検討した研究でも報告されており,OATPのアイソフォームであるOATP2B1OATP1A4スタチンによる筋毒性を促進し,横紋筋融解のリスクを増大させるようです.

おそらくスタチン間で発症率の差を作っているのは,このOATP2B1あるいはOATP1A4への親和性によると推察できます.


・スタチンの種類ごとの横紋筋融解症発症率を検討した研究はあるか?
ありました.CzirakyらのRCT473,343人を対象にした研究J Clin Lipidol. 2013;7(2):102–108. では,次のように報告されています.
・スタチン名(横紋筋融解症発症率)

・アトルバスタチン(0.0057%)
・プラバスタチン(0.010%)
・シンバスタチン(0.0055%)
・ロバスタチン(0.0038%)
・フルバスタチン(0.016%)
・ロスバスタチン(0.012%)
・セリバスタチン(0.085%)

このうち,セリバスタチンのみ統計的有意差がついて,発症率が高かったそうです.
ほかのスタチン間では,統計的には有意差はないと評価されていました.


【Clinical Pearl】
・スタチンによる横紋筋融解症の発症機序は,スタチン→OATPに作用→アイソフォームのOATP2B1やOATP1A4に作用→ユビキノン(コエンザイムQ)の産生低下→筋細胞のエネルギー産生阻害→筋細胞死と考えられている.

・脂溶性スタチンの方が水溶性スタチンよりも筋萎縮作用が強い(In vitro)

・OATP2B1やOATP1A4への親和性の差が,各スタチン間での発症率の差を作っていると考えられる.ただし,臨床的にはスタチン間で横紋筋融解症の発症率には差が無いと考えて良い.(セリバスタチンのみ有意に発症率が高い)

・横紋筋融解症の既往があるがスタチンを選択すべき症例で,よりローリスクとなるスタチンはプラバスタチンと考える.


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卒後1年目薬剤師の小林友稀です.

EBM全盛の医療教育を受けてきた世代が臨床の場で躍進する現在でも,エンピリックな治療が行われることは多々あります.

風邪症候群に経口第3世代セフェムを使用するような,完全に間違った経験的治療は否定されるべきですが,経験的な治療の全てを否定するような姿勢はちょっとどうかなと思っています.

経験的な治療とEBMに基づいた治療は,正反対のもののように見えて、実は同じような考え方をするものです.

どちらも「ある患者で上手くいった治療」「目の前の患者へ適応できるか」を考えており,そこはエンピリックな治療もEBMも同じです.

その対象が「自身の今までの経験」からくるか「実験的に行われたデータ」で考えるかの違いでしかないわけです.

「そんなの実験的に行われたデータのほうがn数だって多いし,統計学的に有意差が出ているもののほうが経験なんて曖昧なものより正確に決まっているじゃないか」と思われる方もいるかもしれません.

そんな方にぜひオススメしたい1冊が本書です.




一見,経験的な考え方より,論文のデータをもとに治療を組むほうが正しいんだと考えがちですが,そのように治療をしていく危険性について学ぶことができます.

論文の読み方の本ですが,この手の本にありがちな難しい数式の話は最初から最後まで一切でてきません.豊富な具体例(著名な研究論文)を取り上げ,その論文の結論の持っていきかたが本当に正しいのか検証しながら学習を進めるというスタイルです.

この本の素晴らしいなと思う事は,読んでいてこっちが怖くなってくるくらい著名な研究だろうと有名な先生の論文だろうと「この事象をこういう結論に結びつけるのは,これこれこういう理由で不適切だ」とバッサリ切り捨てている点です.

もちろん,ただ単に批判するのではなく,しっかりと問題点を突いて具体的に指摘しながら論を展開していくので,納得のいく指摘です.

加えて勉強になるのは,論文の実臨床への応用の仕方です.

我々が臨床論文を読む大きな目的は,目の前の患者の治療を考える際の判断材料にするためです.それは論文を読んで結果をそのまま応用できるわけではなく「本当に目の前の患者へ応用できるか」を考えなければなりません.

そういった時に論文のどこをどう読んで,どう評価すれば自分の患者へその治療を当てはめて考えていいのかというスキルを身に付けることが出来ます.

RCTが一番いいかと言えばそうではないですし,研究デザインごとに異なる患者背景をしっかり評価して応用する力がなければ,論文をたくさん読んでもただの頭でっかちになってしまい,患者の治療に活かすことができません.

この本は決して頭でっかちになることなく,論文を正しく評価して臨床で活かせる知識に変換する術を学ぶことができる良書です.

また,最近流行り(?)の“複合エンドポイント”が設定されている論文の読み方についても実例をあげて解説してあります.

昔からある著名な論文を自分の診療の糧とするために,また最新の論文を読みこなせるようになるために.EBMをしっかりと医療へ活用したい全ての方へオススメできる1冊でした.

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卒後1年目薬剤師の小林友稀です.

最近,呼吸器内科の患者を診ることが増えたので,外来でメジャーに遭遇する軽症喘息のプラクティスを勉強しなおそうと思って論文を探していました.

少し古い論文になりますが,NEJMで“軽症”の喘息に焦点をあてた分かりやすいClinical Practiceがあったので,内容が古い箇所は最新の知識に更新しつつ,まとめてみました.

参照した論文はMild Asthmaというシンプルなタイトルの論文です.

勉強していると得てして“より重症でより珍しい疾患”という方向に進みがちです(ぼくだけでしょうか).学生のうちは時間がたっぷりあるので興味の赴くままに勉強するのもよいですが,臨床に出た後で大切なことは“よく遭遇するメジャー疾患”から勉強することです.


よく遭遇するものから勉強していくのが,勉強の成果を業務で発揮しやすいですし,実際に役に立つ機会も多いのでモチベーションも高く勉強を続けられる秘訣だと思います.


そんなわけで重症喘息の治療法から勉強するより,Mildな喘息から攻略していきましょう.

研究としては比較的大規模で,ランダム化した二重盲検試験です.LABAを販売している会社から助成金を受けていますが,論文中で「LABAをコントローラーとして使用することは重症喘息発作のリスクや喘息発作による死亡率を増加させる」と記載してあるので,まあ信頼できるかなと思います.


1.小児期の軽症喘息が重症化することは少ない.
喘息もちの小児が,風邪をひいて発作を起こし受診なんてケースは多く経験しますが,適切な治療がなされれば沈静化します.
喘息は学生の頃に気道の好酸性炎症と習いましたが,軽症の場合は非好酸性だそうです.知らなかった.

加えて、男児の喘息は成長と共に治癒していくことが多いですが,女児は成人になっても継続する事が多いみたいです.


2.鼻炎と肥満は喘息悪化のリスクファクターとなる.
鼻炎は理解できます.喘息の方はテストで問題肢に挙がっていれば選べそうですが,臨床の中では意識しないと見逃してしまいそうです.睡眠時無呼吸症候群もたいていは肥満が原因で起こるので,やはり呼吸器関連疾患においても肥満の治療は必要なんだなと思います.


3.患者評価はthe Asthma Control Testで.
喘息患者へ投薬する際にどんなことを問診で聴取すればいいかが書いてあります.

20点に満たない状態なのになんとなく状態が良さそうだからと「コントロール良好」なんて気安く薬歴に書いてはいけません.「ACT20点でコントロール良好」なんて薬歴が書けたらかっこいいですね.明日から実践できるスキルは勉強していて楽しいです.

the Asthma Control Test
・すべての問診は最近1か月の状態を訊き取ります.過去の薬歴から分かることもあると思うので,全部を1度で訊いて患者さんを困惑させないように重要度の高い順番から聴取しましょう.外来は無限に時間がある学生のプラクティスではありません.限られた時間で効率よく質の高い監査・投薬をするのも薬剤師の大切なスキルです.

・喘息により仕事や学業がどの程度妨げられたか.(1点:毎日~5点:なし)
・喘息によりどれだけのshort of breath(息切れ)があったか.(1点:1日1回以上~5点:なし)
・喘息症状(喘鳴,咳嗽,息切れ,胸部絞扼感,胸痛)で夜間,或いは朝早く目が覚めたか.(1点:週に4回以上~5点:なし)
・何回レスキュー用の吸入を行ったか.(1点:1日3回以上~5点:なし)
・喘息コントロールはどうだったか.(1点:コントロール不良~5点:完璧)


上記の満点25点で評価します.

喘息治療のゴールは良好なコントロールと副作用の最小化の2つです.

具体的な治療に関しては専門書やガイドラインに譲りますが,軽症喘息の基本戦略はICS+SABAもしくはICS/LABAによるSMART療法ですね.SMART療法が優れているわけではなく,どちらも効果・副作用ともに同程度のようです.As-Needed Budesonide–Formoterol versus Maintenance Budesonide in Mild Asthma


吸入ステロイドの投薬をしていて質問されることの1つに,成長に対する悪影響があります.たしかに小児に関しては吸入ステロイドの使用は平均1.2cm低身長になるので,必要最小限にする必要はあります.

成人であれば発作時の吸入ステロイド間欠短期治療は定期吸入と比較して遜色ないというスタディがありますので,SEが懸念される場合は発作時吸入でも良いのかなと思います.


発作増悪時には吸入ステロイド量を5-10日間,4倍量投与して重症化を阻止すると良いそうです.吸入ステロイドの添付文書を確認すると一部を除いて,多くの吸入ステロイドは最大投与量が4倍程度まで承認されているため,処方提案しやすいですね.

副作用はdysphonia(発声障害),口腔カンジダ,嗄声などが有名です.服薬指導の際にしっかり説明しているとは思いますが,うがいやスペーサーの使用,極小粒子製剤の使用で,ある程度予防はできます.うがいできないときはお茶などの飲み物で口をゆすいだり,唾を吐くだけ(spit)でも効果があるそうです.

フォローアップは基本的ですがウイルス感染で喘息再燃が起こりやすいので,普段の手洗い・うがいは大切ですね.当たり前のことですが,しっかり指導していきましょう.

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卒後1年目薬剤師の小林友稀です.

今日勉強した論文は1月3日のNEJMからです.

Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for Hypertriglyceridemia

対象は,心血管疾患または糖尿病と他の心血管リスク因子を有する患者8,179人です.

いずれもスタチン療法を受けており,空腹時トリグリセリド(TG)値135-499 mg/dL,低比重リポ蛋白コレステロール値41~100 mg/dLの例を対象に,多施設共同の無作為化二重盲検プラセボ対照試験で中央値4.9年間追跡するというデザインです.

患者群は,イコサペント酸エチル2gを1日2回(1日量4g)投与する群(EPA群)プラセボを投与する群(プラセボ群)に無作為に割り付け,主要評価項目は,心血管死亡,非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中,冠血行再建,不安定狭心症の複合としています.主な副次的評価項目は,心血管死亡,非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中の複合としています.

結果はEPA群で心血管死亡率[4.3%対5.2%,ハザード比:0.80,95% CI:0.66~0.98,P=0.03]などが有意に低かったです.心房細動や心房粗動による入院の割合は,EPA群のほうがプラセボ群よりも高くなりました[3.1%対2.1%,P=0.004].重篤な出血イベントは,EPA群の2.7%とプラセボ群の2.1%で発生しました[P=0.06].


臨床での置き換えはスタチン加療中かつ空腹時TG値が135以上で考慮といったところでしょうか.加えて,不整脈の治療中や既往歴は少し避けたいところです.

易出血との兼ね合いが個人的に悩むところかと思いますが,他に出血リスクのある薬剤の服用中であればTG値と不整脈の既往,連絡がすぐとれる関係性が構築できているかなどを勘案します.


ちょっと脇道にそれますが,個人的な意見として僕はスタチンが大好きです.

インパクトのある試験として著名なものは1995年のWOSCOPS試験があります.学生の皆さんにもぜひ一度目を通して頂きたいのですが,今まで全くの無症状でchoだけ高い患者(今までは“健康な人”とされていました)にプラバスタチンを投与しただけで冠動脈疾患の発生率を抑えることができたという試験です.

「なんとスタチンは健康な人をさらに健康にするのか!」と発表当時は盛り上がったらしいです.

続いて2008年のJUPITER試験では,高感度CRPが高値の患者へロスバスタチンを投与したところ,心筋梗塞ではハザード比:0.46という驚異的な数値を叩きだし,他にも心血管イベントの抑制効果が著しく「魔法の薬なんじゃないか」と思ってしまうような薬です.


もう1点だけ薬剤師目線で褒めさせていただくと,スタチンは適度な抗炎症作用がある点が,薬理の面から見ても心血管イベント抑制という結果を裏付ける理論が成り立っていて好印象なのです.

動脈硬化の原因は血管内プラークが大きな割合を示しますが,プラークの形成は動脈壁の炎症が原因と考えられています.(学生さんは動脈硬化の教科書を開いてみてください.血管内に食べかけのスポンジケーキが蓄積しているような図があることでしょう)

高血圧あるいは高血糖状態が続いて,血管にダメージが加わると血管壁で炎症が起きます.すると血管壁はケモカインを放出して,マクロファージなんかが遊走されますね.そして修復→ダメージ→修復→ダメージ…と,リモデリングを繰り返していくと白血球たちも「お前いい加減にしろよ」と怒ってだんだん簡単な修復しかしなくなります.

そして簡素な線維化だけで修復を済ませるようになり,あっという間に食べかけのスポンジケーキもとい,不安定プラークの完成となるわけです.

炎症反応が原因でリモデリングが進むことが動脈硬化の病態生理なんですが,スタチンはそれも抑制する力があるなんて魅力的ですね.皆さんもきっと明日から薬局にあるスタチンへ尊敬の眼差しを向けることでしょう.


そんな“スタチン信者”のぼくですが,やはりスタチンの負の面についても触れないわけにはいきません.

それは薬剤師国家試験の定番中の定番,横紋筋融解症ですね.

「そんな副作用,いうてめったに起こらんやろ?」と学生の皆さんは思っていることでしょう.

横紋筋融解症まで進むほど放ったらかしにしていたら,ひどい薬剤師ですよ.しっかり投薬後のフォローが出来ていないと怒られてしまいます.(怒られるだけで済めばいいですが,訴訟なんてなったら目も当てられません.いや,本当に)

よくある初期症状は全身倦怠感,筋肉痛,筋炎症状などです.コーラ色の尿になるまで待っていたら薬剤師失格ですよ.もっと早く拾い上げて下さいね.

ともかく,この横紋筋融解症や肝障害が曲者で,われわれ日本人は遺伝的にこのSEが起こりやすいのです.SNP解析でもスタチンの筋障害が起こりやすいことが指摘されています.

スタチン使用中の患者への投薬時には「体を動かしたわけでもないのに,どうも筋肉が張っていたり筋肉痛がするんだよね…」なんて訴えは見逃さないよう注意です.

もしそういう事態が起こった場合は,処方医に連絡するのは当然のことですが減量や水溶性スタチンへの変更を提案してあげてください.(strong statinではロスバスタチン,standard statinではプラバスタチンが水溶性です)


いろいろな臨床試験を読み始めると,ぼくのように調子に乗ってバンバン試してみたくなる時期が来ると思います.(勉強熱心な薬剤師なら誰もが通る道.たぶん…)

しかし,しっかり試験内容の精査をしなかったり,本当に目の前の患者に当てはめられるのか,という検討を怠って「欧米ではCADあれば100mg/dL,ACSなんて日には70mg/dLまでガツンとLDL-C下げますよ」なんてやってしまうと,「筋肉痛が…」と訴える患者さんが増えてしまうという悲しい結果になります.


今回のEPAの論文でも,結果をそのまま鵜呑みにせず,慎重に適応となるか考えながら処方設計する必要がありますね.
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卒後1年目薬剤師の小林友稀です.

臨床で調剤に従事する薬剤師に欠かせない勉強ですが,ぼくは4大医学雑誌(NEJM,Lancet,JAMA,BMJ)から実臨床で使えそうなもの,興味のある記事をピックアップして勉強しています.

今日紹介する記事はJAMAで読んだこんな論文です.
Association of Oral Anticoagulants and Proton Pump Inhibitor Cotherapy With Hospitalization for Upper Gastrointestinal Tract Bleeding.

抗凝固薬のSEとして有名なものに消化管出血がありますがアピキサバン(エリキュース®),ダビガトラン(プラザキサ®),リバーロキサバン(イグザレルト®),そしてワルファリンK(ワーファリン®)の4剤で出血リスクが高いものはどれか.またPPIの併用はそれを抑制するか.という研究です.

本研究では4剤のいずれかを服用したときの上部消化管出血頻度と,PPIの併用,非併用群で予防効果について比較しています.

主要評価項目は,上部消化管出血による入院として,抗凝固療法1万人/年当たりの補正後発生率RD(リスク比)IRR(発生率比)を算出しています.

解析対象は,新たに抗凝固薬が処方された1,643,123例(平均76.4歳(SD:2.4),追跡651,427人/年,女性56.1%,AF(心房細動)患者74.9%)です.



では結果を見てみましょう.

結果はリバーロキサバン:144件/1万人年,アピキサバン:73件/1万人年,ダビガトラン:120件/1万人年,ワルファリンK:113件/1万人年であり,上部消化管出血発生率はリバーロキサバンが最も高率,アピキサバンが最も低率となりました.


リバーロキサバンの出血リスクが高いことは色々な研究で言われているのでいまさら驚きはしませんが,ここまで多くの研究で指摘されるとめちゃめちゃ制限のある臨床試験とはいえ,ある程度の薬剤特性を表した結果なんじゃないかと思ってしまいます.

個人的にはアピキサバンが好きで,よくFLに挙げるのですが,最近はダビガトランの中和剤であるイダルシズマブ(プリズバインド®)ができたことで入院下であればダビガトランも結構いいなと思っています.

ともあれ,いずれのDOACもワルファリンKと謙遜無いSE発生率ですよ,という内容は目新しいものではありませんでした.

では,PPI併用について見てみましょう.

PPI併用群の264,447人年では,上部消化管出血の発生は2,245件,補正後発生率は76件/1万人年であり,PPI併用のない群と比較して,上部消化管出血による入院を大きく減らしていることが分かります(IRR:0.66).

この結果は,抗凝固薬の種類によらずアピキサバン[IRR:0.66,RD:-24],ダビガトラン[IRR:0.49,RD:-61.1],リバーロキサバン[IRR:0.75,RD:-35.5],ワルファリンK[IRR:0.65,RD:-39.3]と,いずれにもPPIの併用は有効なようです.


統計手法ですが,Propensity Scoreを考慮してはいるものの,観察研究であるのでエビデンスは微妙なところです.どの臨床研究でもそうですが,特に抗凝固薬のSEに関しては人種差や生活スタイルの違いが結果に大きく影響しやすいのは周知の通りですから,そこをよく考えて自分の知識としての落とし所を考える必要がありそうです.

易出血性についてはDOAC相互で直接対決!みたいなRCTの臨床研究があればいいのですが,ぼくの知る限りではまだそのような研究はされていません(たぶん.知っている方がいらっしゃれば教えてください)

個人的な解釈としてはDOACのFLはやはりアピキサバン.金銭的なことを考慮するとワルファリンK.PPI併用については,出血リスクが高いと考えられる人にだけ処方を考慮する.

こんな感じでしょうか.

出血リスクについては,抗凝固療法を行うAF患者におけるHAS-BLEDスコアが簡易で有名ですよね.

しかしHAS-BLEDスコアは簡易で評価しやすいのは確かですが,その意義にどれほどの臨床的価値があるのだろうかと一抹の不安が残るスコアです(個人的に).

そんな中,2年前のLancetに利便性よりも予測性の向上に力をいれた新しいスコアリング作ったよ!という研究がありました.その名もABC出血リスクスコアで,バイオマーカーをベースにしているのが特徴です.(The novel biomarker-based ABC (age, biomarkers, clinical history)-bleeding risk score for patients with atrial fibrillation: a derivation and validation study

論文を読んでみると,どうもスコアをNomographを用いて算出するようですが,肝心な算出方法について記載されていません(見つけられないだけ?).

加えてC統計量が0.68で,「いやいや思いっきりLow accuracyだろ!」とツッコミたくなる始末です.

国試の勉強をしている薬学生の皆さんも同じツッコミをしたことでしょう.ロジスティック回帰分析懐かしいですね.国試にも出たような気がします.一般的にはC統計量は0.7以上でないと予測性が高いとは言えません.きっといつか国試にもC統計量がでます.たぶん.

HAS-BLEDスコアのC統計量も0.61しかないのでどっこいどっこいですが,よくもまあこんな数値で予測性UP!なんて言えたなと思う内容でした.

もう一言だけ付け加えると,出血リスク評価の項目になぜBleeding(出血傾向)があるのかなんて…いや,もう止めておきましょう.


という訳で,出血リスクについては易出血の既往があったり,高血圧だったり,糖尿病であったりなど,あきらかなハイリスクを考えられる病態であれば処方提案したいのですがどうでしょう.

DOACもワルファリンKもよく使う薬ですから,これからの臨床研究の充実を待ち望んでいます.

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