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ニセルゴリン(サアミオン®)の雑感

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卒後6年目薬剤師の小林友稀です.
ニセルゴリン(サアミオン®)ってどのようなイメージがありますか?

脳循環・代謝改善薬としては,ニセルゴリンの他に,イフェンプロジル(セロクラール®)もよく使用される薬剤と認識しています.他にはアデホス®も同分類ですが,めまいに対しての薬というイメージが強いです.

ガンマ-アミノ酪酸(ガンマロン®)やシチコリン(ニコリン®)メクロフェノキサート(ルシドリール®)は使用経験がないのでよく分かりません.

ニセルゴリン,イフェンプロジルはどちらも脳梗塞後遺症(イフェンプロジルは脳出血後遺症にも可)に伴う症状を改善する薬で,ニセルゴリンは慢性脳循環障害による意欲低下に対して,イフェンプロジルはめまいに対して使用する薬剤です.

どちらも脳梗塞の既往があれば,念のため入っている程度の認識でした.

先日,ポリファーマシーのため処方を整理しようと思い,状態が安定していると評価できる患者さん(施設入所)のニセルゴリンの中止を提案し,中止になった症例がありました.

しかし中止してすぐの頃から,夕方~夜間にかけて今までなかったせん妄が出現し,今まで率先して行っていた手伝いをしなくなり,トイレの場所や仕方が分からなくなるという精神症状がみられるようになったと施設職員から報告を受けました.

認知症の現病もあるため,認知症の進行も鑑別には挙がりますが,やはり症状出現の時期とニセルゴリン中止の時期がぴったりなので,ニセルゴリン中止の影響と判断して処方医と相談のうえ再開にしました.

ここで元通りになりましたならキレイな話のですが,今度は帰宅願望が強くでるようになりました.せん妄はなくなり,トイレの混乱の頻度も減りました.

評価が難しいですが,「ニセルゴリンってしっかり薬効があったんだ」と認識できた1例でした.

ニセルゴリン中止で認知症様の症状がみられたので,おそらく脳梗塞後の認知障害にも有効であったと考えられます.また抑うつ症状や自発性の低下にもおそらく有効だったと評価できます.

「意欲低下」意外にも認知症症状がある(または併存疾患として認知症がある)場合や,抑うつ症状がある(または併存にうつ病がある)場合や,もともと持っていた自発性が低下しているような症例ではニセルゴリンの導入は積極的に検討するのが良いかもしれません.

また薬剤師の目線からポリファーマシーの解除として“手もつけやすい”イメージがある薬かもしれませんが,他の薬剤と同様に中止前後の状態の変化には注意し,本当に中止しても大丈夫かの評価をしっかりすることが大切ですね.
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当ブログは薬剤師や医療従事者を対象にしたものです.ブログ内容の多くは,理解するために基礎的な薬学,医学の知識が必要です.知識不足による誤解や曲解には当ブログは責任を負いません.提示している症例は,実際にあった症例を基に教育的要素を付加した模擬症例です.また個別の相談や症例相談には応じられません. ご了承ください.その他,ご意見・ご感想は,ブログのコメント欄にお願い致します.

スルピリドの食欲増進作用の機序

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卒後6年目薬剤師の小林友稀です.

食欲のない抑うつ症例に対して,ファーストでスルピリドの処方はよく経験します.

ところでスルピリドの食欲増進作用についてしっかり理解していますか?
ぼくは恥ずかしながらしっかり理解していなかったです.
消化管運動促進作用があるから何となく食欲増進するのかな~くらいでした.

しかし,抗精神病薬に多い食欲増進作用はだいたいがヒスタミンH1受容体を介した食欲増進です.あれ?スルピリドも抗精神病薬としての作用あったよな?と思って混乱したので勉強し直しました.

(1)消化管運動改善→食欲増進?

・消化管のD2遮断作用
D2受容体にドパミンが作用→アセチルコリン(ACh)の遊離抑制→AChによる消化管運動促進(平滑筋:M3受容体)をブロック.

そこでD2遮断→ドパミンがD2受容体にくっつけない→AChがしっかり遊離→M3受容体を介して消化管運動促進という流れ.

・M3受容体と消化管運動
迷走神経終末から遊離するAChが平滑筋のM3に作用して平滑筋収縮→胃運動亢進.

M3受容体作用→小胞体のプロトンポンプに作用→胃酸分泌促進もある.

・胃酸分泌の機序復習
胃底腺領域の壁細胞から胃酸は分泌される.これは3種類の機序で分泌が促進される.
①前庭部粘膜のG細胞→ガストリン分泌→ガストリン受容体→小胞体のプロトンポンプ(PP)
②迷走神経終末からのACh遊離→神経節のM1受容体からACh遊離→M3受容体→小胞体のPP
③ECL細胞からヒスタミン遊離→H2受容体→小胞体のPP

①~③まで異なるスタートだが,結局はPPに作用して胃酸分泌する.

だから胃酸分泌抑制作用はPPI > H2ブロッカーになるんですね.納得.

すこし脱線しましたが,スルピリドの食欲増進作用はD2遮断作用による,消化管運動促進からくるものと理解できました.

ちなみにヒスタミンへの作用はほぼ0なので,H1受容体を介する食欲増進はないみたいです.
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片頭痛の予防薬

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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

片頭痛でエレトリプタン(レルパックス®)やリザトリプタン(マクサルト®)などの発作治療薬のみでコントロールできずに,予防薬を追加する必要がある時の薬剤選択について勉強しました.

・片頭痛予防療法の適応
片頭痛の予防療法が適応になるのは,急性期治療だけでコントロールできない(具体的には月に2回以上の片頭痛発作がある,あるいは6日以上ある)場合です.

基本的には単剤で治療をしますが,場合によっては2剤程度までなら併用もできそうです.
ただ,内服2剤を使用するのであれば,CGRP抗体製剤の使用を考慮してあげるほうが良さそうです.


・片頭痛の病態生理
片頭痛の原因にはいくつかの仮説がありますが,代表的なものは以下の3つです.

1.血管説
ストレスなど,さまざまな原因で血小板からセロトニンが放出されます.セロトニンによって脳血管は一度収縮し,時間経過と共に拡張していきます.この「収縮してから拡張する時」に頭痛が起こるという説です.


2.神経説
皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD)という現象が原因という仮説です.
これは,大脳皮質でのニューロンとグリアの脱分極が同心円状に拡張,延伸し,その後しばらく電気活動が制限される現象のことです.

CSDによって硬膜,軟膜血管の収縮や拡張が起きたり,硬膜動脈の血漿タンパク質が血管外に漏出する現象(plasma protein extravasation:PPE)が引き起こされることで,頭痛が起こるという説です.


3.三叉神経説
何らかの原因(三叉神経周辺の血管の拡張など)によって三叉神経に炎症が起き,痛みが生じるという説です.

3つの仮説に共通していえるのは,血管の収縮/拡張は何らかの形で関わっているのは間違いないだろうということですね.


片頭痛予防薬としてよく使用される薬剤を1つずつ勉強してみます.

1.ロメリジン(ミグシス®)
ピペラジン系のCaチャネル拮抗薬です.1回5mgを1日2回,朝食後・夕食後あるいは就寝前.MAXは20mg/日です.

副作用が少ない薬剤なので使いやすいです.
ただ,効果としてもマイルドで,倍量処方が必要になるケースもあります.

ロメリジンは脳血管選択性が高いという特徴があり,血圧低下作用はさほど気にしなくてよさそうです.機序としては脳血管細胞へのCaイオンの流入を抑制し,血管拡張作用で頭痛を予防します.

片頭痛の病態として,一度収縮した血管が拡張するときに痛みを生じるので,常に拡張気味にしておくことで「収縮させない」ようにするという戦略です.

催奇形性があり,妊婦に禁忌のため,妊娠を希望する女性へは注意が必要です.


2.プロプラノロール(インデラル®)
β1非選択性でISA(ー)β遮断薬です.
20~30mg/日より投与を始め,効果が不十分な場合は60mg/日まで増量できると添付文書では記載があります.
ただ,10mg/日でも効果を認めることもあるので,10mg錠1錠からスタートして様子をみるのも良いと思います.

機序としては正確には解明されていませんが,中枢性交感神経活動の抑制作用が知られているので,神経活動の過活動などを抑えるという機序かと考えます.

β遮断の血管作用というと,β2作用による血管拡張を遮断→血管収縮と考えてしまいがちですが,これは「末梢血管」への作用で,脳血管にはほとんど作用しません.

インデラルはISA(ー)ですが,ISA(+)のβ遮断薬は片頭痛予防効果は少ないようです.理由は不明ですが,ISA(+)があるとβ刺激作用も持ってしまうので,それが何らかのマイナスな作用をもたらすのでしょうか.

インデラルはリザトリプタン(マクサルト®)の血中濃度を上昇させるため併用は禁忌です.


3.バルプロ酸(デパケン®)
バルプロ酸は脳内でグルタミン酸脱炭酸酵素の活性化とGABAアミノ基転移酵素阻害作用により,GABAレベルを上昇させ,神経細胞の興奮性を抑制する作用で片頭痛を予防します.

デパケンR錠では,400mg~800mg/日を1~2回で服用します.

片頭痛ガイドラインでもグレードAで推奨されていて,臨床試験データも多いので国際的なコンセンサスが得られている治療薬です.

比較的低用量で用いる理由としては,バルプロ酸の血中濃度が50μg/mL未満の群が,それ以上の群よりも治療成績が良く,副作用も少なかった(血中濃度:21~50μg/mLが至適)というデータや,低用量のバルプロ酸に反応しない片頭痛患者で,投与量を増やしても効果が得られないというデータがあるためです.

てんかんで使用する際も共通ですが,1,000mg~1,500mg/日を超えると催奇形率が高くなるため注意が必要です.


4.アミトリプチリン(トリプタノール®)
添付文書上は適応外ですが,適応外使用が認められているので査定されることはないと思います.

10mg/日で就寝前に1錠からスタートが望ましいです.効果を確認しながら,60mg/日まで増量できます.

機序としてはSNRI作用による下行性疼痛抑制系の賦活です.

脳幹部の大縫線核から脊髄後角へ下行し,セロトニン放出によって痛みを抑制するセロトニン経路と,脳幹部の青斑角から脊髄後角へ下行し,ノルアドレナリン放出によって痛みを抑制するノルアドレナリン経路の2つの経路を下行性疼痛抑制系といいますが,この脊髄後角において,セロトニン,ノルアドレナリンの再取り込みを阻害し,シナプス間隙のセロトニン,ノルアドレナリン量を増やして下行性疼痛抑制系の働きを強化します(抗うつ作用も同様の機序です).


5.ベラパミル(ワソラン®)
Ⅳ群のCaチャネル拮抗薬です.

40mg~120mg/日を1~3回に分けて服用します.

Caチャネル拮抗薬なので,機序はロメリジンと同様です.

群発頭痛に対しても使用できる点がポイントです.


代表的な片頭痛予防薬について勉強しました.

それぞれ機序や注意点が異なるので,特性を掴みながら目の前の患者さんに最適な薬剤はどれか,治療管理していく上で注意すべき点は何かを考えながら処方鑑査,投薬していくのが大切ですね.
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「default mode network:DMN」について

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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

Alzheimer病の勉強をしている時に,「default mode network:DMN」という言葉を知りました.

これは所謂「ぼーっとした状態」のことで,なにも思考せずに虚無を見つめているみたいな状態のことです.この状態をdefault modeといいます.

何となく,脳が最小限のエネルギーで動いているようなイメージがありますが,実は意識的な状態よりもはるかにたくさんのエネルギーを使っているみたいです.

活性化するのは前頭葉などではなく,後部帯状皮質(posterior cingulate cortex),楔前部(precuneus),内側前頭前皮質(medial prefrontal cortex),角回(angular gyrus),下頭頂葉小葉(inferior parietal lobule)などです.これらの領域の繋がりをDMNといいます.

DMNは何となくとりとめもないことをボンヤリ考えたり,自信のことや誰か他の人のことを考えていたり,過去の記憶を思い出していたり,将来のことを考える時に活性化します.

臨床的に面白いなと思った点は,アルツハイマー病や自閉症の画像所見ではDMNの機能低下がみられるということです.

また,アルツハイマー病アミロイド蓄積がみられるのもDMNと一致するそうです.
アミロイド蓄積が原因でDMNの機能低下が起こるのか,DMNの機能が低下するとアミロイド蓄積が起こるのかは分かりませんが,DMN領域にアミロイドが蓄積することは確認されています.

また,脳死状態ではDMNの活動は休止しています.

DMNの活動を活性化すれば,アルツハイマー病の予防になるのではないか!と月並みな発想で何となく瞑想してみたり,座禅を組んで心を落ち着けるというのを寝る前にやってみました.結果としては座っている体勢に疲れて普通に横になって寝てしまいました.

その後に調べて見ると,実は座禅をしている状態ではDMNの活動は低下するということが分かりました.なんということでしょう.DMNの機能を活性化しようと思ってした座禅で,まさか活動が低下しているなんて...

ということは,座禅はいろいろな事をぼんやり考えたり,自分のことを見つめ直したりするということではないのですね.何が正解なんでしょう.心を無にすることでしょうか.心を完璧に無にすることができる人がいたら,そのときのDMNがどうなっているか見てみたいです.


アデュカヌマブという,アルツハイマー病を適応としたアミロイドβに対する完全ヒト化モノクローナルIgG1抗体医薬品が話題になりましたが,これもDMNに作用してアミロイドβを除去するのでしょうか.

DMNに関して,新しい知見を学んだらまたまとめてみたいです.
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パーキンソン病のセミナーまとめ

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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)の勉強のために,ジャーナルで記事を検索していたら昔のThe Lancet(June 13,2009)でセミナー記事を見つけました.

内容がユニークで面白かったので,つい読み込んでしまいました.
新しく知った知見などを書き留めておこうと思います.


・PDはタバコやカフェインを取らない真面目な人に多い.
面白い疫学です.僕はタバコは吸いませんが,カフェインは大好きです.そしてとーっても真面目です.2/3を満たしているので気をつけなければなりません.

ちなみに発症中央値は60歳.発症から死亡まで約15年.PD患者の死因1位は肺炎だそうです.


・インド蛇木でPDを引き起こすことがある.
インド蛇木なんて大学の生薬学漢方薬の講義以来,久しぶりに目にした言葉です.

インド蛇木は英名でsnake woodもしくはdevil pepperなどと言います.いかにもな名前ですね.キョウチクトウ科の植物で,生薬になる部分はラウオルフィア根です.

成分は数種類のアルカロイドで,薬理として重要なのはレセルピンアジマリンです.PD発症の機序としては,恐らくレセルピンの強力な中枢性鎮静作用が影響しているのではないでしょうか.

このレセルピンの作用を期待してか,サプリとして売られているケースもあるみたいです.怖いですね.

それにしてもインド蛇木がPDを引き起こすなんて講義で習ったかな?真面目な学生だったはずなのに覚えてません.反省.


・PDの転倒は前方か側方転倒が多い.
転倒の有無については確認する意識はありましたが,「どの向きに」転倒しているかはあまり意識したことがありませんでした.

後方転倒はPD以外の疾患であることが多いそうです.


・PDと「脳血管性パーキンソニズム」の違い
脳血管性パーキンソニズムの特徴として,レボドパがあまり効かないこと,安静時振戦(resting tremor)がないこと,下肢の運動症状が強いこと,などがあるみたいです.


・OFF時のレスキューにはapomorphineの皮下注が有効.
これも知らなかったです.
手元の治療薬ハンドブックを見ると,アポモルヒネ皮下注(アポカイン皮下注30mg®︎)という薬剤があり,「 パーキンソン病におけるオフ症状の改善(レボドパ含有製剤の頻回投与及び他の抗パーキンソン病薬の増量等を行っても十分に効果が得られない場合)」という適応があります.

専用のカートリッジ製剤となっているので,在宅や外出時に患者さん自身で自己注射が可能なようです.

The Lancetのセミナーって面白いですよね.また面白い記事があれば勉強したいと思います.
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パーキンソン病について

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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)の復習をしました.

PDの治療はやはりレボドパです.実際にはレボドパ単剤ではなくカルビドパを併用したレボドパ/カルビドパ配合錠(ネオドパストン配合錠L250など)を用いることが多いかと思います.


・レボドパ/カルビドパの併用
基本ですが,併用する理由から復習してみましょう.

レボドパはドパミンの前駆物質で,脳内で不足しているドパミンを補う目的で投与します.

しかし脳内に移行する前に,速やかに脱炭酸化されるため,十分な量を中枢に持っていくのが難しい薬剤です.

そこで,カルビドパという脱炭酸酵素阻害薬を併用することで,末梢でレボドパが脱炭酸化されることを防ぎます.カルビドパ自体は中枢移行性がすごく低いので,効率的に末梢での脱炭酸化のみを阻害できます.

そうすることで,レボドパ単剤で使用する場合と比べて,レボドパの中枢移行性を上げることができます.

レボドパが末梢で脱炭酸化されると悪心,嘔吐などの消化器症状が副作用として出てくるので,その副作用の軽減にもなります.


・PDの病態
PDは脳内のドパミンが低下しているので,ドパミンを補充する治療を行うという認識はあると思います.

もう少し詳しくみてみましょう.

ドパミンはチロシンから生合成され,チロシンは必須アミノ酸のフェニルアラニンから生合成されます.

PDではチロシンやフェニルアラニンは欠乏していないので,問題はドパミンを生合成し,線条体へ輸送している部分にあります.

この部分を「黒質緻密部」といい,これは大脳基底核を正常に動かすために必要な脳内ネットワークの一部です.

この黒質緻密部のドパミン作動性ニューロン「神経変性」によって正常に働かなくなってしまったり,ニューロンの数が減ってしまったりした状態がPDです.

そこで「ドパミンが作れないなら,ドパミンに似たやつ使えば良いじゃない!」とマリーお姉さま的発想でつかうのがドパミンアゴニストです.

しかし病態を考えるとドパミンアゴニストでその場は何とかなりますが,黒質緻密部の神経変性が治るわけではないので,根本的な治療にはなりません.

そのためレボドパ投与でさまざまな特徴的な副作用が現れます.


・wearing-off現象
レボドパの血中濃度に依存してみられる症状の悪化現象です.

PDの進行によって,治療域となるドパミンの血中濃度の幅が狭くなり,今までの用法用量では,治療域から逸脱してしまうことがあります.

上方向(ドパミン過剰)に逸脱すれば,ジスキネジアと呼ばれる不随意運動を引き起こし,下方向(ドパミン不足)に逸脱すればPD症状が強く出ます.

wearing-off現象がさらに進行し,あたかもスイッチを付けたように急に症状が改善したり,逆にスイッチを切った時のように急に症状が悪化するようになることを「on-off現象」といいます.


・「神経変性」って?
PDの病態を復習してきましたが,黒質緻密部の「神経変性」を改善できれば,ドパミンの補充療法ではなく,PDの根本的な治療になるうるのでは,と思いませんでしたか?

そこで神経変性について,もう少し掘り下げて勉強してみました.

どうやら血管障害や自己免疫などが関与しているわけでは無さそうです.

まだはっきりとは解明されていませんが,PDにはα-シヌクレインが関与していると言われているようです.

ほかにα-シヌクレインが関与する疾患としては,多系統萎縮症(multiple system atrophy)レビー小体型認知症(dementia with Lewy body:DLB)などがあり,PDも含めてこれらの疾患はアルファシヌクレイノパシー(α-synucleinopathy)と総称されているようです.

PDで説明すると,黒質緻密部が何だか分からないけど変なことになっていて,その内部を調べると何だか変な物質がたくさんありました.その変な物質がレビー小体と呼ばれるもので,そのレビー小体の中身を調べるとα-シヌクレインだったというわけです.

問題は「このα-シヌクレインが原因で神経変性を起こしたのか」「α-シヌクレインを作りすぎたことで神経変性が起きたのか」「神経変性の原因は他にあって,その副産物としてα-シヌクレインができたのか」が分かっていないことです.

これが解明できれば,新たなPD治療薬に繋がるかもしれません.

この分野の基礎研究の進展に期待したいです.
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ぼくのお気に入りである「極論で語る」シリーズから,神経内科の参考書を勉強しました.




「薬剤師が神経内科…?」と思われる方もいるかもしれませんが,我々が日常的に外来で診ている患者さんのなかにも神経内科的疾患を抱えた方はたくさんいます

例えば認知症てんかんパーキンソン病睡眠障害などは神経内科が専門です.

逆に言うと,これらの疾患を神経内科以外で加療している患者さんでは,専門外の医師が処方をするわけですから,切れ味のよくない処方であったり,治療法が古く適切でない処方である可能性もあるわけです.可能性の話ですよ.

例えば,薬局外来でもCommonな疾患である認知症をざっくりみてみましょう.

病歴聴取のポイントは「初発症状」です.

短期記憶障害なのか,異常行動なのか,性格が変わったのかを鑑別することで大脳のどこの部位が障害を受けているのかが分かります.

そこから認知症の分類が推測できるのですが,詳細は本書で勉強してみてください.

簡単に分類をまとめると,
・ご飯を食べたことを忘れてまた食べようとする→Alzheimer型

・今週に入って急にぼけちゃって…→脳血管性

・小人などの幻覚が見える→Lewy小体型

・性格が変わって怒りっぽくなった→前頭側頭葉型


こんな感じです.

「薬剤師がこの分類知ってなんの役に立つんだよ」なんて思ってはいけません.

この知識が患者さんを不適切処方から救えることだってあるんです.

例えば,性格が怒りっぽくなった,不適切な言動が増えたという認知症の患者さんがいたとします.

未だに「認知症=ドネペジル(アリセプト®)を処方すればいい」と思っている医師は少なくありませんから,この患者さんにもアリセプトが処方されていたとします.

さて,前述した認知症の分類に当てはめると,この患者さんは前頭側頭葉型認知症に該当しそうです.では,前頭側頭葉型認知症にアリセプトは正解なのでしょうか

答えは不適切です.

前頭側頭葉型認知症では,物忘れではなく異常行動が問題になるケースが多いです.この場合にドネペジルを使うと異常行動が悪化する恐れがあるので処方してはいけません.


というような,日常の調剤で診る機会の多い疾患かつ非専門医から処方を受けているケースが多い神経内科疾患について,基礎からざっくり学べる良書です.

かなり気に入っているのが「覚悟をきめてドパミンをいじる」「コリンをいじるということを理解する」などと,薬理を大事にしている姿勢が伝わる内容が随所にあることです.

長らく神経内科は「治療法のない科」と言われてきましたが,IVIg大量点滴静注療法やPEが保険適応となり,新規抗てんかん薬が次々と台頭してきた神経内科領域を経験しているからか,筆者は薬物治療について理解が深い方だなと思います.

本の分量も,忙しい薬剤師でもサクッと読破できる分量で(内容はしっかり深いです),神経内科専門医はこういうことを考えながら診療にあたっているのか,という点が理解できるようになります.

認知症をはじめ神経内科疾患を診るすべての医療者へ,自信を持ってオススメできる一冊です.
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前回に引き続き、てんかんの勉強会で学んだことのシェアです。

今回は「脳卒中後てんかんの治療戦略」というテーマです。


脳卒中後てんかんの頻度は8.2%(2年以内の発症)と言われています。また、てんかんの原因となる脳卒中は出血性と虚血性が半々くらいで、発作タイプは全般性強直間代発作が多いです。


LEVとCBZはどちらがいいか。というテーマでは、
SEの点で比較すると、LEVでめまい、倦怠感が、CBZでアレルギー(湿疹)が代表的であり、頻度はCBZの方が高いです。また、高齢者はLEV単剤で治療する方が予後が良いという報告もありました。
したがって、LEVとCBZではLEVの方が使いやすい印象をもちます。

またVPAとの比較では、SAHからAVMになりVPAで治療していましたが、どうしても発作が残ってしまう症例において、LEVに切り替えたところ、発作が治まりコントロールできたという報告がありました。

本勉強会では、VPAは総じてSAH後のてんかんには成績不良であることが示されていました。
特に高齢で、けいれん発作が多い症例では予後が悪くなるようです。

LEVの導入を考えたときは、VPAにLEVをONするより、切り替えた方が治療成績が良いみたいです。


AEDを使う上での注意点の1つに、choの上昇が挙げられます。やはり服用期間が長いほど、動脈硬化リスクがあがることが示されていました。

AED治療で脳卒中リスクはどうか?という報告では、やはりリスクは高くなるとのことでした。とくに酵素誘導型のAEDは顕著にリスク上昇がみられました


以上のことを踏まえて、AEDは酵素非誘導型のCBZ、LEV、LTGなどをメインに考えて使うのがいいと思われます。


今回は脳卒中後のてんかんのテーマでしたが、逆に、てんかん治療中の脳卒中にも気を付けるべきです。とくに若年では気を付けて診療にあたるべきです。

我々が外来で確認すべき脳卒中のRFS(レッドフラッグサイン)は、突然発症、嘔気・嘔吐±頭痛、頸部痛、リスクファクター(高血圧、糖尿病、喫煙、心房細動など)、手足の使いにくさなどがあります。 
これらのサインを見つけたら、神経内科やてんかんの専門医へコンサルタントすることを考えましょう。

最後に、てんかん治療はいつまで続けるか、というテーマですが、
SAHのように脳のダメージが大きいならある程度の期間続けるべきですし、発作が無く安定しているならやめる事を考慮していいと思います。


勉強会で学んだことをもとにした記事ですので、詳細なデータが手元にないため、記事中でお示しできませんが、正確を期して書いたつもりです。
皆さまのてんかん診療に少しでも役に立てばと思います。
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卒後1年目薬剤師の小林友稀です。

先日、非痙攣性てんかん重積発作(non-convulsive status epilepticus、NCSE)について学んだので、自分なりにまとめてみました。

てんかんは患者数が多い割に診断が難しいことや、僕が働いている岐阜県のように、てんかんを専門で診れる環境が整っていない地域もあり、外来で非専門家による診療が行われていることが多い疾患です。

今回は、外来調剤を行っている薬剤師なら誰もが遭遇しうる、てんかんの治療についてシェアできたらいいなと思い、この記事を書きました。

まずは特発性NCSE3例の症例を簡単に紹介します。(勉強会の場では、他に何例か症例が提示されていましたが、今回のテーマに関連が深く、類似の症例を除いた3例を紹介しています。)

Case.1
82歳女性。左側頭葉の充血。AEDはDZPで頓挫。その後LEV 1000mg p.o. およびfPHT i.v.で治療した。


Case.2
73歳男性。双極性障害の既往あり。主訴は突然の意識障害と半身の麻痺。MRIで左海馬に高信号を認め、SPECTで血流量の増加を認めた。脳波は左右周期性の周期性放電。


Case.3
90歳女性。認知症の既往。主訴は意識消失。MRIに異常所見なし。DZP 5mg i.v. で一時的に良くなるが10-20分で戻ってしまう。mRS5で死亡。


他に参考となる論文も呈示された上で、今回の症例と文献から教訓。

・NCSE軽度ならLEV500mg i.v. →LEV1000mg p.o.が1番予後が良い。


いくつか提示された症例から考察すると、NCSEには、

・先行する全身痙攣重積状態(generalized convulsive status epilepticus、GCSE)
がある急性型タイプ



・認知症が先行する慢性型タイプ

に分けられるようです。


認知症が先行し、てんかん発作を繰り返す症例では、神経組織の傷害や脳血流量の低下が見られ、それが難治のNCSEという病態へ繋がっていると考えられます。

また、脳血流量のsevere hyper perfusionは不可逆性を示し、AEDが効きにくいことを示していると考えられます。

治療は、AEDが効きにくいので、ミダゾラムやプロポフォールなどを使ってもいいですが、肺炎などの全身合併症が心配なので、DZPでシャットダウンしてからLEV内服が良いのかなと思います。


今回はNCSEについてのみ抜き出してまとめてみました。
次回は、もう少し掘り下げた てんかんの薬物治療と、脳卒中との関連について学んだことをシェアしたいと思います。
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