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カテゴリ:治療戦略

ベンラファキシン(イフェクサー®)のまとめ

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卒後5年目薬剤師の小林友稀です.

ベンラファキシン(イフェクサー®)の勉強会がありました.
忘れないうちに記録をしておきましょう.

・低用量ではSSRI的に,高用量ではSNRI的に働く
ベンラファキシンはSNRIですが,低用量では主にセロトニンの作用を示し,高用量ではセロトニン系の作用に加えてノルアドレナリン系の作用も加わります.

以前の記事で,高用量ではセロトニン系の作用が落ちると書いてしまいました(現在は修正済みです)が,正しくは「高用量ではセロトニン系の作用が頭打ちになって,ノルアドレナリン系の作用がでてくる」だそうです.

ちなみにSSRIの作用はセロトニントランスポーターの占有率と相関があることが知られています.セロトニントランスポーターの占有率が80%を超えると,臨床的に効果がでるそうです.逆にいうと,占有率が80%未満では効果はまだ弱いということですね.

ベンラファキシンでは75mg/dの用量で,セロトニントランスポーターの占有率が80%を超えるようです.

同じヴィアトリス製薬ということでセルトラリン(ジェイゾロフト®)についても聞きましたが,セルトラリン50mg/dとベンラファキシン75mg/dが等価で,この用量でどちらもセロトニントランスポーター占有率が80%を超えるようです.

ちなみにノルアドレナリントランスポーターの占有率と,ノルアドレナリン系の効果の相関について質問しましたが,そちらは解明されていないそうです.


・うつ病の症状が消失していく順番と3種のモノアミンの関係
うつ病の症状のうち,最初に改善されるのは「不安」「イライラ」などのセロトニン作用だそうです.そのため低用量でSSRI作用を示すのは理にかなっていますね.

次のステップでは「憂鬱」「根気が無い」「興味が無い」など,いわゆる「仕事と運動」といわれるノルアドレナリン作用ですね.

そして最後のステップが「喜びがない」「生きがいがない」などのドパミン作用だそうです.


・主要代謝産物のデスベンラファキシンについて
以前の記事で,CYP2D6により代謝を受けてデスベンラファキシンになることで作用を示すこと,海外ではデスベンラファキシン製剤が開発されていることを示しました.

これについて確認すると,どうやらO-脱メチル化でできるデスベンラファキシンとは別の代謝物も作用を示すようで,必ずしもCYP2D6による代謝物(デスベンラファキシン)だけが薬効を示すのではないそうです.


・服用時点について
食後規定になっていますが,食事の影響は特に受けないそうです.
服薬指導の時には,必ずしも食事のあとでなくて良いので,患者さんの生活スタイルに合わせた指導ができそうです.


・腸内環境を整えることが,うつ病の治療に有効?
すこし脱線した話ですが,セロトニンの体内産生についても教えていただきました.
腸内細菌(どの菌種が,という特定はできていないようです)がセロトニンを産生し,その総量の2%程度が脳内に移行してセロトニン作用を示すようです.

腸内環境を整えるのは精神面においても大事なようですね.

ゆくゆくはセロトニン産生を担う腸内細菌を特定し,それを製剤化できれば「整腸剤で抗うつ作用」が期待できるようになるのでしょうか.

または腸内で産生されたセロトニンを脳内に輸送する経路を強化(より効率よく脳内移行させるなど)できれば抗うつ作用が期待できそうです.

今後の開発に期待ですね.
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当ブログは薬剤師や医療従事者を対象にしたものです.ブログ内容の多くは,理解するために基礎的な薬学,医学の知識が必要です.知識不足による誤解や曲解には当ブログは責任を負いません.提示している症例は,実際にあった症例を基に教育的要素を付加した模擬症例です.また個別の相談や症例相談には応じられません. ご了承ください.その他,ご意見・ご感想は,ブログのコメント欄にお願い致します.

便秘の治療まとめ

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卒後5年目薬剤師の小林友稀です.

便秘薬を使用している患者さんって多いですよね.

定期薬として漫然と服用している患者さんも多く便秘の治療ってこれで良いのだろうか,と考えたので勉強してみました.

・「便秘は体質」と考えている患者さん,医師が多い.
そのため,訴えがなかったりすることも多いです.投薬時に積極的に確認していく姿勢が大切ですね.

ところで,皆さんは便秘を治療しなければいけない理由を患者さんに説明するときどうしていますか?

「大腸は風船と同じ.空気を少しいれて抜けばキレイに元通りですが,空気をパンパンにして長時間放置して空気を抜くと,風船は伸びきってしまって元に戻らない.大腸も同じで伸びきった大腸では薬も効きづらくなってしまいます」という説明はイメージがしやすく,分かりやすいのでぼくは頻用しています.


・循環器疾患での便秘治療の重要性
高血圧や狭心症でも便秘治療が大事になります.便をだそうとしていきむのは心臓に悪いのは何となくイメージがつきますね.

具体的には排便時のいきみで血圧は30mmHg上昇すると覚えておきましょう.さらに室温変化でも30mmHg変動するので,冬の明け方でトイレが寒く,便座が冷たいといった状況では血圧は60mmHgも上昇する可能性があります.

右心不全による腸管浮腫は腸蠕動運動を低下させて便秘になるので,心不全の患者でも便秘症状がないか確認することが大切です.


・便秘の類型分類
「排便回数減少型」なのか,直腸肛門機能障害や便排出障害といった「排便困難型」なのか.

つまり「排便回数が少ない」「便が出しにくい」かに分けられます.それぞれ対応法が異なってくるので,どちらの型の便秘なのか把握することは薬物治療の評価の上でも重要です.

小児では排便困難型が多いです.

症候性便秘では「糖尿病」「Parkinson病」が多いです.どちらも自律神経障害からくる便秘です.

糖尿病もParkinson病も,原疾患を治療することで便秘を改善させることは難しいので,機能性便秘の治療に準じた対応とします.

薬剤性便秘では有名どころはオピオイドによる便秘ですが,最近はトラムセットなど整形領域の弱オピオイドによる便秘が多いです.

他には,抗ヒスタミン薬(なかでも第2世代)の長期服用で便秘が多いことも知っておく必要があります.


・便秘の薬物治療の基本
治療の軸はやはり酸化マグネシウム(酸化Mg:マグミット®)です.
使い方のコツは,同じ量を飲んでいても軟便になったり硬便になったりするので,効かなければ1錠増やす,効き過ぎたら1錠減らすなどの調節が必要ということです.

酸化Mgを処方されている患者さんの多くは,処方医から「調節して飲んでいいよ」と言われていると思います.裏を返せば,単に“調節”としか言われていないケースが多いです.

ここは薬剤師の腕の見せ所で,便性状に合わせて1錠単位でどう増減量するのかを指導しましょう.これが上手くいくと,かなり長い期間,酸化Mgのみで便通コントロールできるようになります.

酸化Mgは胃内で胃酸と反応し,小腸で重炭酸Mg炭酸Mgとなって,浸透圧により腸管内へ水分を引き込みます.これによって便の容積を増大させ,排便を促します.



・刺激性下剤の使い方
センノシド(プルゼニド®)ピコスルファート(ラキソベロン®)「レスキュー」の位置づけですが,残念ながら漫然長期投与のケースに多く遭遇します.刺激性下剤の連用とそれによる依存はかなり多いと皆さんも実感しているのではないでしょうか.

刺激性下剤を連用していると,下剤性大腸症候群大腸メラノーシスに繋がるため,避けなければなりません.ただ「スッキリ感」として効果の実感が得やすく,患者さんは「よく効く良い薬」と感じやすいです.

余談ですが,大腸メラノーシス(melanosis coli)という用語は適切ではありません.大腸に沈着するのはメラニン色素ではなく,リポフスチンであるため「大腸リポフスチン症(lipofuscinosis coli)」とするのがより正確です.

話を戻して,刺激性下剤をファーストラインで用いたり,漫然と使い続けたりすることは避けなければなりません.これは例えるなら,痛みに対していきなりモルヒネを使って,しかもそれを連用するようなものです.

じゃあ実際,どのくらいの用量ならレスキューなんだ?という点ですが,具体的なレスキューとしての用量は「1週間に1~2回服用」程度です.この用量であれば,依存症になることは考えにくいです.


・センノシド(プルゼニド®)
・センナ・センナ実顆粒(アローゼン®)

アントラキノン系誘導体と呼ばれる刺激性の緩下剤です.有効成分のセンノシドは小腸では吸収されずに大腸へ到達し,腸内細菌の作用でレインアンスロンとなります.レインアンスロンは大腸粘膜の筋層間神経叢を直接刺激することで腸管収縮を促進させて排便を促します.

通常,服用後8~12時間で効果発現するため,就寝前の用法に設定すると起床時に排便できます.


・ピコスルファート(ラキソベロン®
腸内細菌叢由来のアリルスルファターゼにより生じたジフェニール体が大腸粘膜を刺激して,蠕動運動を亢進させて排便を促します.また,腸管内で水分吸収抑制作用をもつので,便を軟らかくする作用も持ちます.

点眼のような容器に入っている製剤で,1滴単位で調節ができます.
高齢者や手指が不自由で滴下による調節が難しければ,錠剤タイプもあります.


・ビサコジル(テレミン®)
坐薬製剤です.結腸,直腸に作用して蠕動運動を促進させます.結腸内で水分吸収を抑制することで,便に水分を与えます.アントラキノン系と比較して,腸管への刺激性が少なく,腹痛を起こすことが少ないのがポイントです.


・便秘診療で使える漢方薬は?
漢方薬については大黄が少量入っている潤腸湯や,大黄が全く入っていない大建中湯が軽症例で使いやすいです.

大黄が入っているものでオススメは麻子仁丸です.これは甘草が入っていないので偽アルドステロン症になりにくく,高齢者でも比較的使いやすい漢方製剤です.


そのほか,新薬などを見てみましょう.

・マクロゴール4000(モビコール®)
モビコールは世界的にも標準薬として使われていますが,ぼくはあまり見かけません.水に溶かすという1ステップが敬遠されるのでしょうか.

ほとんど副作用なく,効果もハッキリしているので個人的にはよい薬だと思います.

同じ浸透圧性下剤ではラクツロース(モニラック®,ラグノス®)も良い薬です.腎機能が低下している患者さんなどで酸化Mgが使いづらい場合は役立ちます.


・ルビプロストン(アミティーザ)
便に水分を与える作用が強いです.非常に硬便な高齢者や,大腸の反応性が低下した症例(糖尿病による便秘)には有効です.

服用初期に腹痛の副作用がでやすいので,その点は注意が必要です.悪心の副作用もでやすく,特に女性に多いので先に指導しておくと不安感を和らげることができるかもしれません.


・リナクロチド(リンゼス)
副交感神経の末端に作用して痛みを緩和する作用もあるので,便秘型の過敏性腸症候群はもちろん,機能性便秘だけれども,痛みが強い患者さんにも有効です.

こちらも腸管の水分量を増やして,大腸疼痛過敏を改善するのが特徴です.


・エロビキシバット(グーフィス)
胆汁酸の流入量を増やして大腸の機能を活性化します.蠕動運動を惹起する作用+便の水分量を増やす作用を併せ持つのが特徴です.便排出障害型の便秘によく効きます.

食前服用な点に注意が必要です.


次に,治療の目標設定についてです.


・初療の治療目標
「ブリストル便性状スケールのタイプ4~5」にすることをまず目指しましょう.
具体的にはバナナっぽい形の便か,それより柔らかい半固形の便が理想です.“表面がひび割れバナナ”はブリストルスケール3なのでもう少し加水したいところです.


・酸化Mgが効かない場合
併用としてルビプロストン(アミティーザ®),リナクロチド(リンゼス®),エロビキシバット(グーフィス®)を使います.酸化Mgからの切り替えであればマクロゴール4000(モビコール®),ラクツロース(モニラック®,ラグノス®)も使用できます.

レスキューの処方を上乗せも良いですが,“レスキュー”として処方することに注意が必要です.前述した通り,週に1~2回分の処方に留めてもらいたいです.


・便性状の微調整には?
整腸剤(プロバイオティクス)としてビオフェルミンミヤBMを併用するのが有効です.
これらは軟便を硬めに,硬便を軟らかくする作用があります.整腸剤を上乗せするだけで劇的に改善する症例も散見します.


・便秘に伴う腹痛があれば
漢方薬では,桂枝加芍薬湯大建中湯の併用が有効です.もしくは腹痛改善のエビデンスのあるリナクロチド(リンゼス®)を使うか,“もたれ”についてはモサプリド(ガスモチン®)が有効です.


ざっと,便秘の治療についてまとめてみました.
新しい知見があれば加筆していこうと思います.
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SNRI作用をもつ3剤の使い分け

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卒後5年目薬剤師の小林友稀です.

SNRI(Serotonin Noradrenalin reuptake inhibitor)の3剤の使い分けについて勉強してみました.

SNRIだとデュロキセチン(サインバルタ®︎)がメインと考えていましたが,最近ベンラファキシン(イフェクサー®︎)を見かける機会も増えてきたので,改めて整理してみました.

・SNRI総論
SNRIは強力なセロトニントランスポーター(SERT)阻害作用(セロトニン再取り込み阻害:SRIと同義)と,さまざまな程度のノルアドレナリントランスポーター(NAT)阻害作用(NA再取り込み阻害:NRIと同義)を持ちます.

薬理的に考えると,SERT阻害にNAT阻害が加わることで,より広域な脳領域を通じて抗うつ薬が作用するモノアミン神経伝達系を広げることになると考えられます.

(モノアミン仮説が正しいとすれば)モノアミン機序を二重で持つことになるので,相加作用や相乗作用が期待できると考えられます.実際,ベンラファキシンは増量していくことで抗うつ作用も増強していくことが知られていますが,この現象もこの考えを支持しています.

SNRIとSSRIでどちらが寛解率が高いか,SSRI無効例にSNRIは有効かどうかという事は,今なお議論が繰り広げられている最中です.

多発性疼痛症候群の治療分野ではSNRIの有効性が証明されており,実際に保険適応でもその使用が認められています.

まだ十分に確認されてはいないですが,閉経周辺期と関連した血管運動症状(更年期症状)の治療においてもSNRIはSSRIよりも有効であると考えられています.


・NAT阻害作用は前頭前皮質でドパミン(DA)を増加させる
面白いなと思ったのが,NAT阻害作用でDAが増加するという点です.

NATは当然,NAに親和性を持ちますが,それよりもDAのほうが親和性が高いそうです.

通常状態だと,DA神経細胞から遊離したDAは前頭前皮質のシナプス間隙へ広がっていきますが,遊離したDAがNATに結合すると,DA神経細胞はDA遊離を止めます.

しかし,NAT阻害作用をもってNATが塞がっている状態だと,DAがNATに結合できずにDA遊離にストップがかからないため,通常よりもシナプス間隙のDA濃度が高くなります.



1.ベンラファキシシン(イフェクサー®)
ベンラファキシンは用量によって異なるSERT阻害作用を持つことが特徴的です.
SERT阻害作用は低用量で最も強く,用量を上げても作用は頭打ちになります.

対してNAT阻害作用は高用量域でのみ現れて,その作用は中程度とされています.

初期用量では強めのSERT阻害作用→増量していくとSERT阻害作用を維持しながらNAT阻害作用が増えていくというイメージでしょうか.

NAT阻害作用を持つことから,増量していくにつれて高血圧や発汗などのSEが出現しやすくなります.

ベンラファキシンはCYP2D6で代謝され,Oー脱メチルベンラファキシン(ODVまたはデスベンラファキシン)となります.これが活性代謝物であるため,CYP2D6の遺伝多型やCYP2D6の代謝に影響を及ぼす併用薬等の存在で効果に差が出ます.

デスベンラファキシンはベンラファキシンと比べて,SERT阻害作用に比べてNAT阻害作用が強いです.

ベンラファキシンとして投与されたあと,その半量くらいがデスベンラファキシンになりますが,CYP2D6の遺伝多型や併用薬の影響を非常に強く受けるので,ベンラファキシンのNAT阻害作用を予測するのは難しいです.

調べてみると,遺伝多型や併用薬の影響を回避するため,最初からデスベンラファキシンの形で投与する薬剤も開発されているようです.
面白かったのは,デスベンラファキシンはうつ病とは関係なく,閉経周辺期の女性の血管運動症状(いわゆる更年期症状)を改善する効果があることです.

閉経前後においてエストロゲン量の不規則な変動により,視床下部の体温調節中枢にある神経伝達系の調節障害が引き起こされ,これが更年期のホットフラッシュを引き起こします.

ほかにも視床下部のさまざまな神経伝達物質の調節障害が引き起こされ,うつ症状,不眠,体重増加,性欲減退などが引き起こされます.

しかし,これらの症状が「エストロゲン量の不規則な変動」によって引き起こされるのであれば,閉経後であればエストロゲン量は低値で固定されるので,症状は改善しそうに思えます.しかし実際はそうではありません.この機序はどうなっているのでしょうか.

閉経後はエストロゲン量が低値となるため,脳に十分な量のグルコーストランスポーターが発現しなくなります.トランスポーターが減ってしまうと,中枢神経系にグルコースを運搬するために従来よりも多量のグルコースを輸送する必要がでてきます.この多量のグルコースを視床下部が感知して,NA神経作動の引き金になります.

NA神経が作動することで血管運動性の反応や脳血流量の増加,脳内のグルコーストランスポーターの代償的増加が引き起こされます.

SNRI作用は,この過剰になった視床下部の反応を抑えることで,血管運動症状を改善します.

SSRI作用はエストロゲンが低下した女性ではあまり効果がなく,エストロゲン量がある程度保たれている方が有効である点は面白いです.SNRI作用はエストロゲンに左右されるようなことはありません.

これを踏まえると,閉経前の女性ではSSRI(もちろんSNRIも有効)を使用し,閉経後であればSNRIを使用するという治療戦略が有効だと考えられます.


2.デュロキセチン(サインバルタ®)
NAT阻害作用よりもSERT作用の方が若干強いという特徴があります.
疼痛への有効性が有名ですが,デュロキセチンで改善できる疼痛は多岐にわたり,糖尿病性末梢神経障害性疼痛や線維筋痛症,骨関節炎,腰部慢性骨格筋性疼痛(いわゆる慢性的な腰痛)にも有効です.

従来,うつ患者の訴える身体的疼痛は“感情的疼痛”とされて治療上,重要視されてこなかった歴史があります.しかし,デュロキセチンが疼痛の伴わないうつ病だけでなく,うつ病のない疼痛も改善させることから,うつ病に附随する身体的疼痛の存在を明確にしました.

また,デュロキセチンは老年期うつ病によくみられる認知障害の治療にも優れた効果があることが示されています.これはNAT阻害作用によってNA作用の増強とDA作用の増強が影響していると考えられます.

ベンラファキシンと比較して,血圧上昇をきたすことが少なく,離脱症状も軽度であることは使いやすいポイントになります.

薬理的には疼痛全般,疼痛のあるうつ病,高齢者,高血圧合併例に第一選択として用いることができそうです.


3.ミルナシプラン(トレドミン®)
日本と欧州で抗うつ薬として初めて市場に登場した,最初のSNRIです.
アメリカでは線維筋痛症への適応のみ持ちますが,逆に日本と欧州では線維筋痛症への適応がありません.

ほかのSNRIがNAT阻害作用よりSERT阻害作用のほうが強いことに対して,ミルナシプランはNAT阻害作用のほうが強いです.

薬理的に考えると,疼痛への機序はセロトニンよりもノルアドレナリンのほうが大きいので,デュロキセチンと同様(あるいはそれ以上)に疼痛への治療効果も期待できるはずです.

3種類のSNRIの中では最もNAT阻害作用が強いので,うつ病に伴う認知症状やfibro fogと呼ばれる線維筋痛症に伴う認知症状へ有効であるとも考えられています.また気力の増強も最も強いので,抑うつ症状が強い症例にも有効であると考えられます.

反面,強力なNAT阻害作用によって,ほかのSNRIよりも発汗や排尿困難を引き起こしやすいという欠点もあります.

排尿困難に関しては,膀胱におけるα1受容体へのNA作用と考えられるので,α1遮断薬を用いれば軽減できるはずです.


SNRIを3種類,比較してみました.
それぞれの薬剤特性を理解して,目の前の患者に最適な治療薬が処方されるように,処方提案できると良いですね.
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前立腺肥大症の治療薬

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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)の治療薬について勉強しました.

まずは病態生理から復習します.


・前立腺肥大症の病態生理
前立腺肥大症は前立腺組織の良性過形成により下部尿路機能障害を呈します.

良性組織の過形成によるもの(悪性の場合は前立腺がん)で,機能障害なので物理的に閉塞することで,排尿が困難になる疾患をいいます.

下部尿路閉塞の主な病態は2種類あって,
(1)腫大した前立腺組織による機械的な閉塞

(2)交感神経のα1受容体刺激を介した,前立腺間質中の平滑筋収縮による機能的な閉塞

があります.

閉塞に対して,どちらがどの程度関与しているかは,過形成された組織と平滑筋組織の割合で決まるので,よく測定される前立腺体積と重症度はあまり相関しません.

合併しやすい疾患として過活動膀胱(over active bladder:OAB)があります.
だいたい50~70%程度の合併率です.


・治療方針
自覚症状の改善が主な目的です.
つまり,下部尿路症状を軽減することで,QOLの改善を目指すのが治療になります.

我々が担う薬物治療としては,α1遮断薬ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬が治療の軸になります.

前立腺体積が大きい症例(具体的には30mL以上)では5α還元酵素阻害薬を併用します.

OABを併発している場合抗コリン薬β3作動薬を併用します.


薬物治療について見てみます.

【α1遮断薬】
1.タムスロシン(ハルナール®)
第一選択薬です.臨床でもよく見かけます.体感としても第一選択で使われることの多い薬です.
α1A受容体への選択性が高い(α1Dへも同等の選択性があります)ことがポイントです.
というか,下部尿路のα1A受容体を標的に開発された初めての薬です.

α1受容体血管や平滑筋に存在する受容体で,血管には主にα1Bが発現しています(学生の頃はBloodのBで血管にはα1Bと覚えました).こちらに作用してしまうと,α1Bの血管収縮作用を遮断→血管弛緩→低血圧,ふらつきなどの副作用が起こりやすくなります.
(厳密には,若年時の血管ではα1Aが優位に多く,加齢に伴ってα1Bが増えてサブタイプが逆転することが知られています.ただBPHは加齢に伴って発現する疾患なのであまり気にしなくてよさそうです)

下部尿路組織にはα1A(α1Dも同程度,発現しています)が多く発現しているので,こちらに選択性が高いと都合が良いです.

すこし脱線しましたが,タムスロシンは前立腺のα1A受容体に作用して,前立腺を収縮させることで,尿道を広げ,排尿しやすくする機序を持ちます.

1日1回0.2mg食後服用です.徐放性のため1日1回投与ができるのもアドヒアランスの観点から優れています.(腎機能低下例では0.1mg/日から投与開始)


2.ナフトピジル(フリバス®)
α1D受容体への選択性が高い薬剤です.こちらも第一選択薬として使えます.
開始用量が25mg/日で,漸増して75mg/日まで増量できます.
用量調節のしやすさ(自由度)はタムスロシンよりもあります.


3.シロドシン(ユリーフ®)
α1A受容体への選択性が高いです.
こちらもBPHの薬物療法に於いては第一選択薬になります.

射精障害のSEがあるので,比較的若年者には用いにくい薬剤かなと思います.
添付文書では逆行性射精等が17.2%と記載があります.無視できない数値ですね.

自覚症状として分かるのは精液量の減少です(膀胱側へ射精してしまうため).
不妊症のリスクになりますが,それ以外で健康上の害はないので妊娠希望される以外は特に放置しても問題ない副作用ではあります.

1日2回投与なのが少し懸念です.肝/腎障害では低用量開始を考慮します.


【PDE5阻害薬】
4.タダラフィル(ザルティア®)
尿道前立腺の平滑筋細胞においてPDE5を阻害し,局所のcGMPの分解を阻害することで平滑筋を弛緩させます.これで尿道が広がり排尿しやすくなるのはα1遮断薬と同様ですね.

また,下部尿路組織における血流及び酸素供給が増加するので,虚血や炎症に対しても有効と考えられます.こういった作用が複合して排尿症状を改善すると考えられます.

α1遮断薬とPDE5阻害薬の効果の差ですが,短期的な治療効果は同等とされています.

α1遮断薬で起立性低血圧などのSEが問題になる場合は,PDE5阻害薬に切り替えて使用するという立ち位置が良いと思います.

PDE5阻害薬は,基本的に虚血性心疾患では禁忌となります.
血管平滑筋弛緩作用をもつcGMPの分解を阻害→cGMP作用増強で血管拡張→降圧作用をもちます.

硝酸薬やニトログリセリンなどのNO供与薬と禁忌なのは有名ですね.
NOの血管弛緩作用を増強させる力が強く,死亡例もでているためでした.


【5α還元酵素阻害薬】
5.デュタステリド(アボルブ®)
前立腺体積が30mL以上の症例が良い適応になります.
基本的にはα1遮断薬PDE5阻害薬併用して使用します.

デュタステリドの作用点である5α還元酵素は,前立腺においてテストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)に変換する際に作用する酵素です.

DHTは核内にあるアンドロゲン受容体と結合し複合体を形成します.この複合体はmRNAの合成を促進して前立腺の増殖や機能発現に関与するタンパクの産生を促進します.

デュタステリドによって5α還元酵素が阻害されると,テストステロン→DHTへの変換が阻害され,mRNAの合成も阻害されるため,前立腺の増殖等に関与するタンパク産生が阻害→前立腺組織を減らすことに繋がります.

注意点として,投与6ヶ月以降,PSA値を約50%減少させるため,PSA値の評価をする場合は実測値の2倍を目安に評価しなければならない点に注意が必要です.


今回は前立腺肥大症の治療を復習しました.
過活動膀胱合併はまた別の機会にまとめたいと思います.
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片頭痛の予防薬

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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

片頭痛でエレトリプタン(レルパックス®)やリザトリプタン(マクサルト®)などの発作治療薬のみでコントロールできずに,予防薬を追加する必要がある時の薬剤選択について勉強しました.

・片頭痛予防療法の適応
片頭痛の予防療法が適応になるのは,急性期治療だけでコントロールできない(具体的には月に2回以上の片頭痛発作がある,あるいは6日以上ある)場合です.

基本的には単剤で治療をしますが,場合によっては2剤程度までなら併用もできそうです.
ただ,内服2剤を使用するのであれば,CGRP抗体製剤の使用を考慮してあげるほうが良さそうです.


・片頭痛の病態生理
片頭痛の原因にはいくつかの仮説がありますが,代表的なものは以下の3つです.

1.血管説
ストレスなど,さまざまな原因で血小板からセロトニンが放出されます.セロトニンによって脳血管は一度収縮し,時間経過と共に拡張していきます.この「収縮してから拡張する時」に頭痛が起こるという説です.


2.神経説
皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD)という現象が原因という仮説です.
これは,大脳皮質でのニューロンとグリアの脱分極が同心円状に拡張,延伸し,その後しばらく電気活動が制限される現象のことです.

CSDによって硬膜,軟膜血管の収縮や拡張が起きたり,硬膜動脈の血漿タンパク質が血管外に漏出する現象(plasma protein extravasation:PPE)が引き起こされることで,頭痛が起こるという説です.


3.三叉神経説
何らかの原因(三叉神経周辺の血管の拡張など)によって三叉神経に炎症が起き,痛みが生じるという説です.

3つの仮説に共通していえるのは,血管の収縮/拡張は何らかの形で関わっているのは間違いないだろうということですね.


片頭痛予防薬としてよく使用される薬剤を1つずつ勉強してみます.

1.ロメリジン(ミグシス®)
ピペラジン系のCaチャネル拮抗薬です.1回5mgを1日2回,朝食後・夕食後あるいは就寝前.MAXは20mg/日です.

副作用が少ない薬剤なので使いやすいです.
ただ,効果としてもマイルドで,倍量処方が必要になるケースもあります.

ロメリジンは脳血管選択性が高いという特徴があり,血圧低下作用はさほど気にしなくてよさそうです.機序としては脳血管細胞へのCaイオンの流入を抑制し,血管拡張作用で頭痛を予防します.

片頭痛の病態として,一度収縮した血管が拡張するときに痛みを生じるので,常に拡張気味にしておくことで「収縮させない」ようにするという戦略です.

催奇形性があり,妊婦に禁忌のため,妊娠を希望する女性へは注意が必要です.


2.プロプラノロール(インデラル®)
β1非選択性でISA(ー)β遮断薬です.
20~30mg/日より投与を始め,効果が不十分な場合は60mg/日まで増量できると添付文書では記載があります.
ただ,10mg/日でも効果を認めることもあるので,10mg錠1錠からスタートして様子をみるのも良いと思います.

機序としては正確には解明されていませんが,中枢性交感神経活動の抑制作用が知られているので,神経活動の過活動などを抑えるという機序かと考えます.

β遮断の血管作用というと,β2作用による血管拡張を遮断→血管収縮と考えてしまいがちですが,これは「末梢血管」への作用で,脳血管にはほとんど作用しません.

インデラルはISA(ー)ですが,ISA(+)のβ遮断薬は片頭痛予防効果は少ないようです.理由は不明ですが,ISA(+)があるとβ刺激作用も持ってしまうので,それが何らかのマイナスな作用をもたらすのでしょうか.

インデラルはリザトリプタン(マクサルト®)の血中濃度を上昇させるため併用は禁忌です.


3.バルプロ酸(デパケン®)
バルプロ酸は脳内でグルタミン酸脱炭酸酵素の活性化とGABAアミノ基転移酵素阻害作用により,GABAレベルを上昇させ,神経細胞の興奮性を抑制する作用で片頭痛を予防します.

デパケンR錠では,400mg~800mg/日を1~2回で服用します.

片頭痛ガイドラインでもグレードAで推奨されていて,臨床試験データも多いので国際的なコンセンサスが得られている治療薬です.

比較的低用量で用いる理由としては,バルプロ酸の血中濃度が50μg/mL未満の群が,それ以上の群よりも治療成績が良く,副作用も少なかった(血中濃度:21~50μg/mLが至適)というデータや,低用量のバルプロ酸に反応しない片頭痛患者で,投与量を増やしても効果が得られないというデータがあるためです.

てんかんで使用する際も共通ですが,1,000mg~1,500mg/日を超えると催奇形率が高くなるため注意が必要です.


4.アミトリプチリン(トリプタノール®)
添付文書上は適応外ですが,適応外使用が認められているので査定されることはないと思います.

10mg/日で就寝前に1錠からスタートが望ましいです.効果を確認しながら,60mg/日まで増量できます.

機序としてはSNRI作用による下行性疼痛抑制系の賦活です.

脳幹部の大縫線核から脊髄後角へ下行し,セロトニン放出によって痛みを抑制するセロトニン経路と,脳幹部の青斑角から脊髄後角へ下行し,ノルアドレナリン放出によって痛みを抑制するノルアドレナリン経路の2つの経路を下行性疼痛抑制系といいますが,この脊髄後角において,セロトニン,ノルアドレナリンの再取り込みを阻害し,シナプス間隙のセロトニン,ノルアドレナリン量を増やして下行性疼痛抑制系の働きを強化します(抗うつ作用も同様の機序です).


5.ベラパミル(ワソラン®)
Ⅳ群のCaチャネル拮抗薬です.

40mg~120mg/日を1~3回に分けて服用します.

Caチャネル拮抗薬なので,機序はロメリジンと同様です.

群発頭痛に対しても使用できる点がポイントです.


代表的な片頭痛予防薬について勉強しました.

それぞれ機序や注意点が異なるので,特性を掴みながら目の前の患者さんに最適な薬剤はどれか,治療管理していく上で注意すべき点は何かを考えながら処方鑑査,投薬していくのが大切ですね.
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当ブログは薬剤師や医療従事者を対象にしたものです.ブログ内容の多くは,理解するために基礎的な薬学,医学の知識が必要です.知識不足による誤解や曲解には当ブログは責任を負いません.提示している症例は,実際にあった症例を基に教育的要素を付加した模擬症例です.また個別の相談や症例相談には応じられません. ご了承ください.その他,ご意見・ご感想は,ブログのコメント欄にお願い致します.

更年期障害の漢方治療

カテゴリ:
卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

前回は月経前症候群(PMS)の漢方治療を勉強しました.

今回は同じく産婦人科領域で更年期障害の漢方治療を勉強してみます.


・更年期障害について
更年期は,閉経前後5年間の合計10年間と定義されています.

原因は卵巣機能の低下が主ですが,加齢に伴う身体的な変化精神的な要因などが複合的に影響すると考えられています.

症状としては,
・血管運動神経症状
火照り,ホットフラッシュ(のぼせ),発汗など
・身体症状
めまい,頭痛,肩こり,腰痛,関節痛,冷え,便秘など
・精神神経症状
不眠,易怒性,抑うつ,不安など

が見られます.


・加味逍遙散
体質虚弱な婦人で精神神経症状や便秘傾向がある患者さんに著効します.

加味逍遙散に関しては,更年期障害への効果加味逍遙散群/ホルモン補充療法(HRT)群/加味逍遙散とHRT併用群で比較したランダム化比較試験(RCT)があります.

それをみると「めまい症状」加味逍遙散群で有意な改善を示しました.

「夜間中途覚醒がある」「胸が締め付けられる症状がある」には加味逍遙散とHRT併用群が有意な改善を示しました.

1つ注意が必要なのは,構成生薬に「山梔子」が含まれる点です.
山梔子は累積使用量が多くなると,腸管膜静脈硬化症の副作用が現れることがあります.

そのため長期使用や,短期使用でも他の漢方との兼ね合いで山梔子の累積使用量が多くなるケースでは注意が必要です.


・腸管膜静脈硬化症
腸管膜静脈硬化症は,腸管膜静脈の石灰化による,環流障害腸管循環不全がその病態です.

特に右側結腸を中心に腸管膜静脈および腸管壁で膠原線維沈着がみられます.
症状が進行すると,腸管の血行動態が低下して循環不全を引き起こします.

炎症細胞による浸潤が乏しく初期は無症状であることが多いので知らない間に進行していることもあります.

山梔子は右側結腸で吸収されることが知られています.まさに腸管膜静脈硬化症の好発部位です.山梔子の主成分はゲニポシドですが,ゲニポシドは代謝される過程において青色を示し,腸管の色素沈着を引き起こします.


・桂枝茯苓丸
続いて桂枝茯苓丸について見てみましょう.
桂枝茯苓丸は更年期障害のホットフラッシュ,頭痛,肩こり,冷えに著効します.

身体所見として,舌下静脈怒張や証として瘀血がある場合に適応になる点で,PMS治療に使える桃核承気湯と似ています.

桂枝茯苓丸もホットフラッシュを有する閉経女性を対象として,HRTとの比較を行ったRCTがあります.

この試験では,ホットフラッシュへの有効性の他に下半身の冷えへの改善も認められました.

また,RCTでは無いですが,更年期障害に関連した高血圧への影響を調べた試験では,桂枝茯苓丸の6ヶ月服用血圧が有意に低下(収縮期:-13.6mmHg/拡張期:-6.0mmHg)し,発汗,不眠,頭痛,めまいなどの更年期障害への有効性も示されました.


2回にわたって,産婦人科領域でコモンなPMS,更年期障害の漢方治療を勉強しました.

効果/副作用のモニタリングで注意が必要な漢方もあるので,適切な薬学的管理が行えるようにしっかり知識を整理したいですね.
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月経前症候群(PMS)の漢方治療

カテゴリ:
卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

産婦人科って何となく苦手意識ありませんか?
メインで応需してる薬局以外は,そこまで触れる機会もないので経験を積みにくいのも理由の1つではないでしょうか.

ただ,産婦人科領域でもコモンな疾患であれば,内科で遭遇することも意外とあります.

特に,月経前症候群(PMS)更年期障害に関しては皆さんも診る機会は多いのではないでしょうか.

産婦人科をメインで応需するところでは,ホルモン補充療法などがメインになるかと思いますが,今回は内科で「ついでに相談して処方出してもらいました」というケースの多い漢方について勉強してみます.


・産婦人科の3大漢方処方
皆さんは何を思い浮かべるでしょうか.
「当帰芍薬散」「加味逍遙散」「桂枝茯苓丸」の3つが,産婦人科3大漢方と言われることの多い漢方です.

この辺りの漢方であれば産婦人科をメインで受けていなくても用意してあるのではないでしょうか.

まずは,漢方の適応になる「証」を見てみましょう.


・産婦人科領域における漢方の基本
漢方医学では,女性の生理現象とそれに伴う精神神経症状身体症状などを「血の道症」と呼びます.

ホルモン療法の補完だけではなく,例えば乳がんの既往があってホルモン療法が禁忌の場合や,ホルモン療法の副作用のため漢方を使う場合,妊娠/授乳中など,漢方を治療のメインとして用いるケースは多いです.

では,3大漢方の具体的な使い方について見てみましょう.


・当帰芍薬散
証としては「筋肉が一体に軟弱で疲労しやすく,腰脚の冷えやすいもの」となっています.「当芍美人」という言葉がありますが,これは当帰芍薬散の適応が華奢で色白の虚弱気味の女性であることに由来しています.

症状としては冷え,めまい,頭痛などに著効します.

有名な身体所見としては,歯痕(舌が浮腫むことにより辺縁に歯形がついた所見)があります.

こんなご時世ですので,投薬台にビニールカーテンがあって,患者さんもマスクをしていると思うので確認するのは難しいかもしれませんが,信頼関係が築けている患者さんや,身内からの相談などの際は確認してみて下さい.

貧血に対しても効果的で,当帰芍薬散クエン酸第一鉄Naとを比較したランダム化比較試験(RCT)も存在します.

当帰芍薬散群では,貧血への有効性以外にも,前述した冷え,めまい,頭痛,肩こり,過多月経,月経困難症などの症状が有意に改善することが確認されています.

さらに鉄剤に多い副作用といえば,嘔気や胸焼けなどの消化器症状(このRCTでは鉄剤群の80%に消化器系のSEが認められました)ですが,当帰芍薬散群では認められませんでした.


・もう1つPMSで覚えておきたい漢方
それは桃核承気湯です.
PMSのうち,イライラして怒りっぽい,寝付きが悪い,食欲亢進などの精神症状があり,便秘傾向で火照りなども見られる場合に有効です.

漢方医学的に「瘀血」と呼ばれる血の巡りが滞った状態で,ほかには舌下静脈の怒張などが確認しやすい証/身体所見になります.

甘草と大黄が含まれるため,ほかの漢方薬を併用してる場合は甘草の量,大黄による下痢や腸管内の着色に注意が必要です.


・桃核承気湯が合わない場合は?
桃核承気湯が合わなかったり,抑うつ傾向が強い患者さんへは香蘇散が使えます.

香蘇散は比較的に“優しい”漢方で,味や香りもクセがなく,飲みやすいという特徴があります.

また,麻黄が入っていないので,胃弱や動悸などの副作用が出てしまう方にも問題なく使えます.

他の漢方薬は味や香りが苦手で飲めないという患者さんや,若い女性などにもオススメできます.


長くなったので,今回はここまでです.
次回は更年期障害によく使われる,加味逍遙散桂枝茯苓丸について勉強してみます.
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整腸剤の使い分け

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卒後4年目薬剤師の小林友稀です.

個人的には整腸剤は酪酸菌一択だろうと考えていました.

整腸作用,抗生剤併用も可,錠剤も散剤もある,などの点から,酪酸菌だけ使ってれば十分なんじゃないかと思っていました.

ただ,他の菌種についてしっかり学んだことがなかったので,他の整腸菌についても勉強してみました.

・酪酸菌
酪酸菌は偏性嫌気性菌で,芽胞を形成します.そのため,胃酸で失活することが少ないという特徴があります.酪酸の産生能が高く,大腸で増殖する性質を持っています.また,酪酸は腸管内の炎症を抑える効果も確認されています.


・ビフィズス菌
ビフィズス菌は偏性嫌気性菌で,小腸下部から大腸にかけて増殖し,乳酸および酢酸を産生します.有害菌増殖抑制作用,腸管運動促進作用があります.


・乳酸菌(ラクトミン)
乳酸菌は通性嫌気性菌で,小腸から大腸にかけて増殖し,乳酸を産生します.増殖性および乳酸生成能が高く,有害菌の発育を阻止することにより,腸の粘膜を保護する作用があります.


・糖化菌
糖化菌は偏性好気性菌で,これも芽胞を形成します.小腸上部より増殖を始め,乳酸菌の増殖促進作用を持ちます.どのくらい増殖を助けるのか調べたところ,糖化菌と乳酸菌の流動混合培養では,乳酸菌の単独培養に比べ,菌数は12.5倍に増加すると記載がありました.


また,他の組み合わせとしては,乳酸菌と酪酸菌の流動混合培養では,酪酸菌の単独培養に比べ,菌数はなんと11.7倍に増加することから,この2種でも共生作用が確認されています.

こうしてみると,配合剤になっている整腸剤は微生物学的,薬理学的には正しいと評価できそうです.

実際,重症型薬疹や薬剤性過敏症症候群,bacterial translocationによる敗血症などの重症疾患において,複数の菌種の合剤による治療が有効であったとの報告もあるようです.

まとめてみると,

・炎症が起きている病態では酪酸菌

・便秘傾向もあればビフィズス菌

・腸粘膜の障害が想定される疾患では乳酸菌

・症状が強かったり,よりしっかり整腸させたい場合は組み合わせて使


といったところでしょうか.

整腸剤も奥が深いですね.
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卒後1年目薬剤師の小林友稀です.

帯状疱疹はよく遭遇するcommonな疾患ですよね.

ところで帯状疱疹って分類分けすると何になるんでしょうか.症状は皮膚にでるので皮膚科疾患?それとも原因の水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus;VZV)を主軸に置くと感染症?

いつも治療を考えるときに参考にする「今日の治療指針」では皮膚科疾患でしたが,個人的には感染症かなと思ったのでこの記事も感染症のタグにしました.

そして新しいコンテンツとして「治療戦略」のタグをつくりました.今までの記事で風邪症候群の治療と,インフルエンザの治療について書いた記事も「治療戦略」のタグ付けをしておきました.

ぼくのブログで圧倒的にアクセス数が多い人気コンテンツは「参考書レビュー」ですが,この「治療戦略」も力を入れて書くので,ぜひ一緒に勉強していきましょう.

治療は患者さんの数だけ存在しますが,まずスタンダードな治療を考えて,あとは患者さんの状態に合わせて最適な治療が行われるようにサポートするのが薬剤師の仕事だと思っています.


では,帯状疱疹の治療について一緒に考えてみましょう.まずは敵を知るところから.原因となるVZVについてです.

VZVは水痘を発症してウイルス血症を起こした後,知覚神経節に播種して生涯潜伏します.そして再活性化(reactivation)した時に潜伏していた知覚神経に沿って皮膚分節(dermatome)へと広がります.

どうして水痘を経験して免疫を持っているハズの大人が帯状疱疹に罹るんだろうと不思議に思ったことはないでしょうか.特に帯状疱疹は50歳以上に多い気がします.なぜでしょう.

調べたところ,NEJMの帯状疱疹のClinical Practiceでその答えが示されていました.どうも加齢と共にVZVを抑えていたT細胞性免疫が低下して発症するそうです.高齢になって免疫レベルが低下して発症するのは,マクロファージが抑えきれなくなって発症する結核なんかと似ていますね.

VZVはワクチンを接種しないと85歳での発症リスクは何と50%にもなるそうです.

そのワクチンについてFDAでは遺伝子組み換え型のサブユニットワクチンであるShingrixを50歳以上で接種することを推奨しています.

以前は弱毒生ワクチンを使っており,ワクチン接種で最低5年間の罹患リスクは減少します.生ワクチンは帯状疱疹罹患後でも接種が推奨されていましたが,Shingrixも同様なのでしょうか.


さて次は症状について見ていきましょう.

前駆症状としてピリピリした痛みや痒みなどの症状が単独あるいは組み合わせで発現します.その数日後に発疹がでるというのが典型症状です.しかし発疹が先駆してあとから痛みが出るケースもあり,また疼痛のみで皮膚症状が無いなんてケースもあるみたいです.皮膚症状がないのは無発疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)というそうです.

そういえば先日,バナナマンの設楽さんが帯状疱疹に罹ったとラジオで言っていましたが,設楽さんも痛みが無く最初は虫に刺されて紅くなっているだけだと思っていた,と言っていました.

虫刺されで受診した患者さんを診るときにも,念のため帯状疱疹は除外しなければなと思いました.

皮膚症状の典型は斑状疹,丘疹で始まり水泡,膿疱へと移行します.発疹が多いのは三叉神経,頸椎,胸椎,腰椎皮膚分節です.虫刺されがこのようなところにあるという患者さんでは注意してみましょう.


痛みの性状にはいくつかあり触られると痛い(paresthesia),触られなくても痛い(dysesthesia),疼痛刺激でないのに痛みを感じる(allodynia),疼痛刺激によって痛みが増強する(hyperesthesia),痒み(pruritus)などがあります.

またBell麻痺も起こす事があるそうです.Bell麻痺ってRamsay Hunt症候群だけではなかったのですね.

また,驚いたのは帯状疱疹は知覚神経に潜伏するのが典型ですが,運動神経に潜伏することもあるそうです.症例を探すと,VZV由来の横隔膜麻痺や神経性膀胱炎を起こしたものがありました.

帯状疱疹で尿閉を起こしているケースもあるようで,帯状疱疹自体がcommonであるため,もしかしたら見逃しているケースも多かったかもしれませんね.尿閉の患者さんでも皮膚症状や痛みについて確認したほうがいいかもしれません.

もう1つ勉強になったのが鼻尖(鼻の横)に発疹ができている患者さんの注意点です.鼻尖の神経節は何だったか覚えていますか?神経解剖の知識なんて試験前に必死に詰め込んだだけで抜けてしまいがちですが,臨床でも大事ですよね.答えはV1(三叉神経第1枝)です.

V1病変と聞けばHutchinson signというフレーズが浮かびますが,注意点はなんでしょうか.

帯状疱疹のV1病変は眼科合併症に注意でしたね.もし患者さんの帯状疱疹がV1にもあり,眼科受診していなければ眼科受診を勧奨しましょう.

考えられる合併症は角膜炎,上強膜炎,虹彩炎,ブドウ膜炎などの炎症疾患から,網膜壊死や緑内障なんて恐ろしい疾患も考えられます.


薬局外来で確認できるのは角膜病変の有無くらいでしょうが,それが無いからと放置してはいけませんね.V1病変では必ず眼科コンサルしようと思います.


さて本命の帯状疱疹のVZVに対する治療を考えてみましょう.

抗ウイルス薬にはアシクロビル(ゾビラックス®),バラシクロビル(バルトレックス®),ファムシクロビル(ファムビル®),ビダラビン(アラセナ®),アメナメビル(アメナリーフ®)があります.

外来で使用する錠剤としてはアシクロビル,バラシクロビル,ファムシクロビル,アメナメビルの4剤が選択肢にあがります.

bioavailabilityはバラシクロビルが優れており,アシクロビルの2-3倍程度あります.急性疼痛への効果もアシクロビルよりバラシクロビル,ファムシクロビルが優位でした.

アメナメビル以外の薬剤は腎排泄型であるため,腎機能に合わせて調節する必要があります.

ファーストラインとしてはバラシクロビル.腎機能を考慮する必要があればアメナメビル帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia;PHN)にはプレガバリン(リリカ®)やノイロトロピン®が良い選択と考えられます.

免疫不全があれば抗ウイルス薬は全例投与です.免疫不全がある場合や神経的合併症が酷い場合はアシクロビル静注.アシクロビル抵抗性VZVは通常,免疫健常者では見られることはありませんが,免疫不全例では遭遇することがあります.アシクロビル抵抗性VZVにはアメナメビル投与を考慮します.


ステロイドの使用は確固としたエビデンスが少ないですが,急性疼痛の減少,ADL改善,治癒促進が見られるとの報告があります.ただし抗ウイルス薬の併用なしでは処方できませんので注意しましょう.また当然と言えば当然ですが,高血圧,消化性潰瘍,糖尿病,骨粗鬆症ではステロイド投与は避けた方が良いですね.

ただPHN減少にはステロイドは効果がありません.そしてステロイドだけでなく,なんと抗ウイルス薬もPHN減少には効果がないのです.これは意外でした.

難治例の治療や,合併症が絡む症例での管理,運動神経へ潜伏したVZVの治療,眼科的治療については,ぼくが主催している研究会で取り上げてみようと思います.
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突然ですがPSL(プレドニゾロン)って難しくないですか?

毎月行っている症例検討会に参加して,PSLの使い方,考え方って難しいなと思ったので勉強しました.

ステロイドと切っても切り離せないのが副作用ですが,ステロイドの歴史を紐解くとそれがよく理解できます.

ステロイドを世界で最初に使った患者は,ステロイドの副作用の最初の犠牲者でもあり,アスピリンとの併用によって消化性潰瘍の穿孔によって死亡しました

ステロイドの勉強をするにあたって,学生時代のファイルをひっぱり出してきて勉強し直しましたが,膠原病の講義テキストにとても印象深いフレーズがあったので紹介します.

「炎症性疾患において炎症はよく火事に例えられる.火事によって自宅が燃えているとき(体が傷ついているとき)は,なるべく早く火を消したいので大量の水(ステロイド)を使う.火を消したあと(炎症が治まったあと)はいつまでも家が水浸しでは困るので速やかに減量,中止する.今後また家が火災に巻き込まれないように(寛解状態を維持する)ためには,燃えにくくする工夫が必要である」

ステロイドでよく言われる「十分量で炎症反応を抑え込み,寛解状態を達成したら副作用の発現を最小限に抑えられるように速やかに減量,可能であれば中止すべき」ってやつですね.


ステロイドの最適な使用を考えるためには,その作用機序の理解が大前提です.

ステロイドの機序は大きく分けて2つありますが,主にgenomic effect(遺伝子転写の調節作用)とnon-genomic effect(遺伝子転写の調節とは異なる作用)に分けられます.

genomic effect
皆さんご存知の通り,糖質コルチコイドは細胞内の受容体に結合し,複合体を形成します.複合体は核内へ移行したあと抗炎症性サイトカインの遺伝子転写を促進し,炎症性サイトカインの遺伝子転写は抑制します.これが臨床効果として出てくるまで数時間かかります.

30-100mg/dのPSL投与でcGCRが飽和するので、この機序としての臨床効果はプラトーに達します.

するとここで1つ疑問がわいてきませんか?

PSLの有名な使い方に「パルス療法」がありますよね.

しかし上記の用量で臨床効果がプラトーに達してしまうのであれば,パルスって無意味じゃね?ってなりませんか.

そこで2つ目の作用機序であるnon-genomic effectの登場です.

non-genomic effect
こちらは遺伝子転写ではなく,アラキドン酸カスケードが関係しています.

実はnon-genomic effectの方がgenomic effectよりも効果発現までの時間が速いんです.そしてこの機序による作用は100mg/d以上の高用量を用いてもプラトーに達しないことが知られています.

つまりステロイドパルス療法で期待する機序はgenomic effectではなくてnon-genomic effectにあったわけですね.

つまり大局的に捉えると,低用量ではgenomic effectを期待して,高用量ではそれに加えてnon-genomic effectも期待して使用するという理解で良さそうです.


ところで皆さんは副腎皮質が産生する糖質コルチコイドの産生量をご存知ですか.

僕は忘れていたので,生理学の教科書をほぼ1年ぶりに開いて確認してきました.手元の標準生理学(第8版)によるとコルチコステロンで1日2-5mg程度だそうです.

しかし最新の生理学の論文をあさってみたところ,どうも最近の研究ではPSL換算で平時2mg程度からストレス時は20mg/d程度まで、実に10倍ものダイナミックな調節が行われているようです,知らなかった.

しかし、よく考えてみれば「補充量」として使用するPSL 5mg程度でも,場合によってはCushing症候群が起こる事を考えるとダイナミックな変動も感覚的には理解できますね.いかに糖質コルチコイドが少量でも内分泌に与える影響の大きい事か.余談ですが,副腎皮質ホルモンの大切さは生命生活に必須といっても過言でなく,両側の副腎を摘出すると数日のうちに死亡してしまいます.


そんな用量の難しいステロイドをさらに難しくしているのは初期用量が病名で決まるのではなく,病変臓器の重篤度で決まることですね.

よく処方箋だけ見せてきて「何の疾患か分かる?」と聞いてくる先生方がいらっしゃいますが,簡単な内容であっても実習生には病歴と身体所見から得られる情報を大切にすべきと教える方が先だと思うので,あまりよくない教育法だと思います.

ぼくも実習生の時は「患者も診ないで疾患名なんか分かる訳ないじゃん…」と思いながらも一応付き合って答えていましたが,なんの意味があるのかよく分からない学習法だったと思います.

ことステロイド治療では,前述した通り基本的には疾患の重症度で投与量を決めるので、患者を診て症状や身体所見を評価したり,検査値が訊きだせないとその投与量が適切かの判断はできません.

基本的にはと書いたのは一部例外もあるからで,例えばリウマチ性多発筋痛症の初期治療量はPSL 15-20mg/dでほぼ決まっていたりします.


また「プレドニゾロンのPはPoisonのP」という言葉通りで,副作用についても注意すべき点がたくさんあります.

ステロイドの副作用は使う用量が多くなれば,比例して多くなるのは事実ですが,かといって投与量を下げるとスッと消えるように副作用がなくなるわけではありません.

ステロイドの用量は「投与量」はもちろん「投与積算量」も重要です.

ずっとステロイドを使っていて問題なかったからといって,これからもずっと大丈夫なんて保障はどこにもありません.

また,副作用は時系列にそって発現しやすいものが知られているため,それは是非押さえておきたいポイントです.

ステロイド投与開始初日から現れやすいものは,不眠やうつ症状などの精神症状です.通常は20mg以上で生じると言われていますが,10mg以下の少量でも発症することが知られています.

続いて血圧の上昇や浮腫などが投与数日ごろから見られることがあります.これは体内の電解質異常がその機序であるため,鉱質コルチコイド作用によるものですね.

数週間継続していて発現しやすい副作用は副腎抑制(負のフィードバック効果)や血糖,コレステロール上昇がみられます.NSAIDsとの併用が数週間続くと消化性潰瘍を起こしやすくなります.

1か月ほど継続すると易感染リスクが上がってきます.易感染は10mg以上で用量依存的にリスクが増加することが知られており,15mg以上では2週間以上継続で細胞免疫も低下します.

1か月以上の継続では紫斑や皮膚線条などの皮膚障害が起こりやすくなります.また所謂ステロイドミオパチーが問題になるのもこのあたりです.

低用量であれば問題ないと考えがちですが,例えば白内障では5mgでも長期使用でリスク上昇することが知られているので,低用量であっても投薬時の問診で視覚機能の評価をすることは大切です.

ステロイドは使い方が難しい薬剤であると同時に,ばっちりはまると著効する力のある薬です.

副作用を最小限に抑え,その効果を最大限に発揮できるようにするのが,われわれ薬剤師の仕事ではないでしょうか.
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